脳腫瘍の治療

INDEX

脳腫瘍の治療は、腫瘍の種類、発生部位、患児の年齢などの条件で決まります。治療チームはそれぞれの患児に合わせた治療計画を立てます。通常、治療には複数の治療法が含まれています。

脳および中枢神経系という特殊な部位を扱うために、治療計画を立てて実行するチームには以下のような専門家が含まれます。

  • (小児)神経外科医: 脳や神経系の外科手術を専門とする医師
  • 神経系の小児がん専門医: 化学療法で脳腫瘍を治療することを専門とする医師
  • 放射線治療専門医: 放射線治療によって脳腫瘍を治療することを専門とする医師
  • 小児神経科医: 子どもの脳や神経系の疾病を治療する医師
  • 内分泌専門医: ホルモン分泌腺の疾病を治療する医師

ほとんどの患児は手術時に生検を経験します。この時に外科医は、安全に取り除ける範囲内で可能な限りたくさんの腫瘍を切除します。手術をすることが危険すぎるか手術することに利益がない場合、手術をしないこともあります。このような例は以下の通りです。

  • 腫瘍が脳幹(首の後上部)にある場合
  • 腫瘍が脳下垂体部、松果体部あるいは視床下部(脳の中心の奥深い部分)にある場合、生検しか行わないことがあります。

ほとんどの患児は手術からの回復が非常に良く、また、多くの患児は腫瘍のせいで失われていたあらゆる神経学的な機能を手術後に徐々に取り戻します。時として手術中の予期できない出血や脳にかかる圧力によって脳の損傷が起こることがありますが、同様にしばしば回復可能です。

脳腫瘍の種類や患児の年齢によっては、手術の後で追加される治療がたくさんあります。

シャント:

腫瘍による閉塞で脳脊髄液が溜まってしまった患児には、脳脊髄液を排出させるためのシャントと呼ばれる器具を設置する必要があります。シャントは脳に元からある空洞(脳室)から頭蓋骨の小さい穴へ通す細いプラスチックのチューブです。その後、脳脊髄液は、一時的に頭蓋骨の外に設置した小さなプラスチック容器へと排出させる場合と、皮下の長いチューブを通って腹腔へ永続的に排出させる場合があります。1週間程度の一時的な排出だけで良いのか、皮膚の下に永続的に設置するチューブが必要なのかを医師が診断します。脳腫瘍の多くの患児は永続型のシャントを設置します。これらは治療後もほとんど目立たず、そのまま何年残っていてもほとんど問題がありません。医師とシャントの設置理由や将来の見通しについて話し合うと良いでしょう。

ステロイド剤:

脳神経の手術を受けた患児はほとんど全員がデキサメタゾンという薬剤を投与されます。デキサメタゾンは手術の後でよく起こる脳の腫れを抑えるための強力なステロイド剤です。デキサメタゾンは初回量で投与を開始し、手術後1~2週間かけてゆっくりと減らしていきます。ステロイド剤は通常、胃炎や胃潰瘍を防ぐために制酸剤と一緒に投与されますが、数日間以上投与されると食欲増進(場合によっては他の副作用)が起こることがあります。脳の上部の切除を受けた患児は、手術後に抗けいれん剤も一緒に投与される可能性があります。

放射線治療:

ほとんどの脳腫瘍の患児は、手術からの回復を待って、およそ6週間の放射線治療を受けます。

  • 非常に幼い患児や腫瘍の悪性度が低い患児は、放射線治療の開始を遅らせるか著しく照射規模を縮小してもかまいません。化学療法だけが有効であると判断される場合には、放射線治療を全く行わないこともあります。
  • 放射線治療は、患児に合わせて作られた「キャスト」と呼ばれる器具で頭を支えてじっと横たわっていれば、平日に数分間で終わります。幼い患児やじっとしていることが難しい患児には麻酔が必要です。
  • 効果を最大限にするために放射線治療が1日2回行われる場合もあります。

化学療法:

脳腫瘍の患児のための化学療法のプロトコール(※訳注)は他のがんで使用されるのと同じようなものであり、がんの種類と患児の年齢の両方に合わせて作成されます。
(※訳注:がんの化学療法は、がんの種類や病期などに応じて様々な治療法が存在します。抗がん剤の組みわせ・投与量・投与回数・投与間隔・投与方法などを定めた治療計画を「プロトコール」と呼びます。「レジメン」と呼ばれる場合もあります。)
3歳未満の幼児では、脳の発達に悪影響を及ぼす放射線治療の実施をなるべく遅らせるために化学療法を行う場合があります。放射線治療の効果を増強させるために、放射線治療の間、化学療法が毎週行われることもあります。

頭蓋内のリザーバーから脳脊髄液へ直接投与を行う化学療法を評価する試験的なプロトコールもいくつか存在します。このリザーバーは脳室へと通じるチューブを備え、シャントと同じように設置されます。

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脳腫瘍の種類とその治療

様々な脳腫瘍の多くには、それぞれに最も有効であると研究で証明されたプロトコールが存在します。下記に脳腫瘍の種類とそれらに対するプロトコールについて説明します。

髄芽腫

PNET(原始神経外胚葉性腫瘍, 未分化神経外胚葉性腫瘍)とも呼ばれます。

髄芽腫は、子どもに最も多い悪性の脳腫瘍です。脳の後下部(後頭蓋窩(※訳注:主に小脳))で発症し、全身の他部位に広がることもある成長の早い腫瘍です。患児の3分の1では診断時に腫瘍が髄膜および脊髄まで広がっています。これらの患児は診断時に嘔吐、頭痛、平衡感覚障害などの症状があることが多く、たまって脳脊髄液を排出させるためにシャントを設置する必要があります。

化学療法:通常、約1年に及ぶ多剤併用化学療法が行われます。

放射線治療:通常、全脳および脊髄への放射線治療を行います。これは、後々の転移(腫瘍の進展)のリスクを減らすためです。3歳未満の幼児については、知能の発達への影響を減らすために放射線治療の開始を遅らせたり照射量を減らしたりするか、またはその両方を行いながら化学療法を先に実施します。

将来の動向:より新しいプロトコールでは、腫瘍に関する生物学的な情報を取り入れた治療法が導入されることでしょう。現在の治療で治る腫瘍については、長期的な副作用(※訳注:晩期合併症のこと)を少なくするように注意深く治療を減らしていく試みがなされています。

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小脳テント上PNETおよび松果体芽腫

これらは、脳の上部に位置する典型的な腫瘍です。腫瘍の位置によって、患者は最初に頭痛、吐き気、嘔吐のほか、発作や目の異常を発症する場合があります。これらのPNETは髄芽腫と良く似た病理組織学的所見があり、同じように治療します。(※訳注:「小脳テント」とは小脳と大脳の境界に位置する硬膜のことで、小脳の上にまるでテントを張ったような構造のためこのように呼ばれます。頭蓋内腔は「小脳テント」によって上下に分けられており、テント上には前頭蓋窩と中頭蓋窩、テント下には後頭蓋窩が含まれます。脳の病気の場所を示す方法の1つとして、テント上かテント下かで区別することがあります。)

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神経膠腫(星細胞腫)

神経膠腫は神経膠細胞で発症する脳腫瘍であり、神経膠細胞とは神経細胞が適切に機能するように周りを囲んで支えている細胞です。星細胞腫は星状膠細胞から発生する脳腫瘍ですが、星状膠細胞は神経膠細胞の一つです。子どもの脳腫瘍のおよそ半数は星細胞腫です。ほとんどの神経膠腫が星状膠細胞から発症するため、星細胞腫と神経膠細胞腫という二つの用語はしばしば同じ意味で使われています。

神経膠腫は、腫瘍がどのように成長し、かつ広がっているかに基づいて、高悪性度か低悪性度かをグレードで分類します。悪性度の低い神経膠腫は通常成長が遅く、脳の一部領域に留まりますが、悪性度の高い神経膠腫は成長が速く、脳全体に容易に広がります。

高悪性度神経膠腫は成人に最も多い致死的な腫瘍ですが、子どもにも発症します。腫瘍の位置によっては、診断時に発作や麻痺があります。高悪性度神経膠腫は非常に進行しやすいので、より多くの強力な治療を必要とします。

低悪性度神経膠腫:
 (例)毛様細胞性星胞腫(グレードⅠ~Ⅱ)、原繊維性星細胞腫、
    神経節膠腫、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ)

低悪性度神経膠腫の治療は、腫瘍の位置および手術で完全に取り除くことができるかどうかで決まります。手術で腫瘍を完全に除去できた患児は、再発の有無を確認するためにMRI検査やCT検査で頻繁に経過観察をしますが、追加治療は必要ありません。

脳の奥深くや視覚神経の経路上(視神経に沿う形で)位置している腫瘍は、安全に取り除くことができません。このような腫瘍の患児は、米国では通常少なくとも18か月間にわたり外来で化学療法を受けます。化学療法だけで腫瘍の進展を妨げることができる場合には、放射線治療を行わないという選択がなされることもあります。

高悪性度神経膠腫:
 (例)退形成性星細胞腫、多形膠芽腫

治療が難しい進行性の腫瘍です。そのため、積極的な治療が行われます。ほとんどの患児は成人よりも治療によく耐えますが、腫瘍を克服できるのは3人のうち1人未満です。治療は以下の通りです。

手術:安全に行うことができる範囲内でできる限りたくさんの腫瘍を切除すること。

化学療法:残っている腫瘍細胞を全て破壊するための化学療法。臨床試験による薬剤投与も含まれます。

放射線治療:後から手術するために先に腫瘍を小さくしておく、あるいは治療後に残っている腫瘍細胞を破壊するための高線量の放射線治療。

脳幹グリオーマ:

この高悪性度神経膠腫は、脊椎の上部につながっている神経の中で成長するので、患児は眼の動きの異常、平衡感覚障害、麻痺、嚥下障害などによって診断されます。克服できる患児もいますが、治療が非常に困難な腫瘍です。治療は以下の通りです。

手術:腫瘍が存在する部位のせいで、通常これらは手術で取り除くことができません。

放射線治療:首の上部に対して放射線治療を行います。

化学療法:この腫瘍では、しばしば試験的な化学療法(※訳注:奏功することが十分確かめられていない実験的な治療法)が必要となります。

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上衣腫

グレードⅡの上衣腫とより悪性度の高いグレードⅢの上衣芽腫は、6歳未満の幼児に生じる傾向があります。この腫瘍は通常、脳の後下部(後頭蓋窩)にできますが、脳の上部や脊髄の中にも発症します。髄芽腫と同じように後頭蓋窩に腫瘍ができた患児は、発作、頭痛、平衡感覚障害などで診断される傾向があります。治療は以下の通りです。

手術:腫瘍が広がっていない場合、腫瘍のほとんどを手術で取り除くことができれば良好な予後を期待できます。

放射線治療:腫瘍を切除した後、ほとんどの患児は腫瘍があった部位に放射線治療を受けます。

化学療法:米国で開発中の新しいプロトコールでは、残存病変がある場合や患児が非常に幼い場合に、生存率を改善しようという試みで化学療法を追加しています。

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胚細胞腫瘍

(例)胚細胞腫(別名:ゲルミノーマ、ジャーミノーム)、
   非胚細胞性胚細胞腫瘍
   (卵黄嚢腫瘍 、胎児細胞癌、混合性胚細胞腫瘍、悪性奇形腫)

これらは希少な腫瘍で、脳下垂体または松果体に最もよく発生します。脳下垂体または松果体に発生した場合は生検を行うことは可能ですが、手術で完全に取り除くことは困難です。胚細胞腫瘍は卵巣や精巣に存在するのと同じ種類の細胞から発生します。

以下のような症状が起こります。

  • 頭痛
  • 吐き気と嘔吐
  • 視覚異常
  • 水分バランスの欠如
  • 性ホルモンや成長ホルモン値の異常

純粋な胚細胞腫の患児は、放射線治療だけで素晴らしい生存率を残しています。米国の新しい臨床研究では、全脳および脊髄への放射線治療に伴う長期的な健康リスクを減らす方法を調査しています。

非胚細胞性胚細胞腫瘍はより悪性度が高いので、長期治癒のためには強力な化学療法と放射線治療を必要とします。腫瘍の部位がホルモン産生と関係があり、治療によってホルモンの分泌障害が起きることがあるので、生涯にわたってホルモン補充療法が必要になる場合があります。

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脊髄腫瘍

(例)上衣腫、低悪性度星細胞腫

脊髄の神経を損傷せずになるべくたくさんの腫瘍を取り除くことができるかどうかが予後を決める鍵となります。

低悪性度の腫瘍: 手術の後は頻繁にMRI検査を行い、注意深く経過を追います。一部の患児は、低悪性度星細胞腫への治療と同じような外来化学療法を受けます。

高悪性度の腫瘍: 化学療法と放射線治療を行います。

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その他の希少な脳腫瘍

脈絡叢(※)の腫瘍(乳頭腫や癌を含む)は、通常幼児に発症し、主に手術、時に化学療法で治療します。
(※訳注:脈絡叢(みゃくらくそう)は脳内にあり、脳脊髄液を産生する部位です。)

頭蓋咽頭腫は、腫瘍の位置および周囲組織を巻き込んでいるかどうかによって手術や放射線による治療が行われます。

筋肉を含む身体の軟部組織から発生する様々な種類の肉腫は、脳にも発生することがあります。これらの肉腫の治療には、その肉腫に適した手術、部分的な放射線治療および化学療法が行われます。

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臨床研究(臨床試験)

米国では、がんの患児の大部分が臨床研究(臨床試験)に参加しています。このような参加率の高さは小児がんの治癒率を改善するのに不可欠です。 研究者は、治療法を改善し、かつ、がんの性格とその原因について理解を深めるために様々な研究を計画します。臨床試験は慎重に審査され、誰でも登録できるようになる前に正式な科学的手順を経て承認されなければなりません。登録中の臨床試験で、お子さんに“適格性がある”場合には、参加するように依頼されるかもしれません。複数の研究に参加するように依頼されることもあります。

特定の研究への適格性があるかどうかは、年齢、がんの部位、病気の広がりやその他の情報によって判断されます。通常、科学的に有効な研究を行うために研究者は研究対象者が的確かどうか厳密に調べなければなりません。さらに研究者は研究の間、厳密に同じ制約に従わなければなりません。

患児に複数の研究(臨床試験)への適格性がある場合、主治医はそのことについてインフォームド・コンセントのための面談(カンファランスと呼びます)を開いて親御さんと話し合います。親御さんがお子さんを研究に参加させたいと思っているか否かに関係なく、主治医は参加することによる潜在的なリスクや、親御さんが決断するために必要なその他の情報について説明してくれます。研究に参加するかどうかをいつでも選択することができます。

お子さんを研究に参加させることを選んだ場合、主治医はその研究の結果からどのような情報を得ることができるのかを説明します。研究の最終的な結果は、一般の方および他の研究者に知らせるために公表されます。どのような研究においても個人が特定されるような情報は公表されません。

様々な種類の研究について詳しく知るためには、このウェブサイトの臨床研究(臨床試験)の項目を参照してください。

米国版の更新時期: 2011年7月
日本版の更新時期: 2012年3月

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