米国の教育

《概要》

 米国では、全国一律の学校制度はありません。公立学校の設立や運営の総合的権限は各州に委ねられています。地域コミュニティがそれぞれの価値観や必要性に応じて学校をつくってきたという歴史もあり、学校の自律性が重視され、州や地域の政府が教育に対して大きな権限を持っています。そのため、現在も義務教育対象年齢や教育体制も州により異なります。方針やカリキュラムは、地区ごとに選出される教育委員(地区住民による選挙や、選挙により選ばれた州知事が指名する)が中心となって決めています。

No Child Left Behind

 2001年に教育法『No Child Left Behind(どの子も落ちこぼれさせない)』が成立しました。これは「成績に対する説明責任」「科学的調査に基づく施策の重視」「保護者に対する選択肢の拡充」「地域の現場管理と柔軟性の拡大」の4つの柱に基づいた法律となっています。
 この法に基づき、各州は、すべてのこどもが達成するべき教育基準と進捗確認の基準、地区ごとの学力データ、生徒の社会的背景などを分析し、必要な追加支援を検討します。改善が必要とされる学校には、保護者、学校職員、地域、外部の専門家による改善策提示が義務付けられています。
 改善支援の一方で、州ごとに決められた目標の未達成が続けば、その学校や学区には罰則規定(職員の大幅な入れ替え、学校形態の変更、学校運営の外部委託など)が適用されます。
 この学校改善と再編の評価方法として、PMM(ポートフォリオ・マネジメント)を採用する学区が増えています。伝統的な公立学校だけではなく、チャータースクール(独自の教育方針を持つ公立校)をひとつの学校郡のポートフォリオとし、学区の教育委員会がそれをみながら各学校の支援・認可・設置を行います。これにより、学区全体で地域や児童生徒のニーズを満たすことが可能になります

《学校運営》

 地域にもよりますが、学校の運営や方針策定には、学校内に組織されたチームと、全米で活動を行う学校改革支援組織(NPOやベンチャー企業)などが協力して行います。チームは、校長、教職員、保護者、地区の住民や教育施設、生徒の代表などにより構成され、地域における学校文化を醸成します。運営には学校の自律性が重視されることから、教育委員会は学校の支援機構としての役割を担います。
 現在の米国では学業成績を基準とする学校責任を厳しく問うことから、学業と地域ニーズの充足、両方に配慮する必要があります。学童生徒の中退が増えたり、地域ニーズに沿うことが難しいと判断される場合、チャータースクールを運営する組織への委託や、Elev8事業(教育・福祉・医療等の包括的プログラム)の誘致などにより、教育現場の安定を目指します。

《さまざまな制度》

 学校選びは家族にとって大変重要です。一般的に公立学校の場合、学区は学童生徒の現住所に基づいて学区内の学校を指定し、学校側も指定された学童生徒をすべて受け入れます。また、マグネットスクール(学区主導。社会的経済的背景を持つ学童生徒に配慮し、特別なカリキュラムを持つ)、チャータースクール(学区ではなく、保護者や教職員が主導)、教育バウチャー(私立学校など保護者が選んだ学校の授業料を軽減)など、保護者が選べる場合もあります。

 中等教育の後期(日本では高等学校に該当)になると、将来を視野に入れた職業教育が始まることから、近隣の大学の授業への参加や、地域企業へ研修に行くなど、学校以外での活動も増えます。補習にコミュニティカレッジ(州が運営。職業訓練、4年制大学進学などのコースがある)を活用したり、ギャップイヤー制度(自主的な計画に基づき、卒業と入学の間に社会経験をする)を利用するなど、地域社会との積極的に関わることができるような制度もあります。

 病児や障害を持つ学童生徒の96%は一般の学校に通い、4%の学童児童は専門施設に通学しています。特別教育資格を持つ教職員と一緒に過ごす時期もありますが、多くが一般の学級で学んでいます。
 さらに、IEP(個別教育計画、Individual Education Plan)も個別に提供されます。私立学校に通う学童生徒については、地元の公立学校でサービスを受けることも可能です。
 IEPは、個別の事案に対応できるよう、きめ細やか且つ柔軟につくられています。QOL(生活の質、Quality of Life)向上やインフォームド・コンセントが含まれています。障害の有無に関わらず、このIEPを採用して、学童生徒、保護者、教師、スクールカウンセラーなどが一緒になり、ひとりひとりに合わせた教育計画をつくる学校もあります。ここでも、客観的評価として個人のPMMが用いられる場合があります。

《運営費》

 公立学校の運営費は、日本では国と地方自治体が負担します。米国の場合、州政府(所得税、法人税、消費税)、地域学区の固定資産税が大きく、家庭からの寄付金も重要な資金源です。つまり、学校がある地域経済の差が教育の質に直接関わります。十分な教育サービスの提供と地域の発展は連動しています。

《これから》

 2011年、米国全体の産業競争力向上を目的として、STEAM教育が国家戦略として位置づけられました。Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)を統合的に学習するというものです。その実現に向け、合衆国教育省から、教育現場でのテクノロジーの活用、EdTechEducation×Technology)開発のガイドラインなどが発表されました。
 2016年、すべての人がテクノロジーによる学習を享受できるよう「個別化された学習(Personalized Learning)」が示されました。従来の対面授業に加え、オンライン学習などを用いることで、様々な教育格差解消への期待が高まっています。また、海外の大学や企業による講座を受講できるMOOCSMassive Open Online Courses)など、世界規模での学習環境が生まれています。

参考:
U.S. Department of Educationhttps://www.ed.gov/

日本版更新:20213
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