延命処置の回避

 今後の治療の主目的を、苦痛を取り除くことにした場合、親と患児が決めることのひとつに、“患児の心臓や呼吸が止まった場合に蘇生術を行うかどうか”があります。その場合、以下に説明するような「DNR(蘇生不要)」「DNI(挿管不要)」「AND(尊厳死)」の要望書を使用します。

 

  • 蘇生不要(Do Not Resuscitate ; DNR)
    人工呼吸や心臓マッサージ、心臓の薬の投与、人工呼吸器の装着などの心肺蘇生法が行われないこと。患児の呼吸や心臓が止まった時に適用される。
  • 挿管不要(Do Not Intubate ; DNI)
    人工呼吸や心臓マッサージ、心臓の薬の投与は行われるが、人工呼吸器は装着されない。
  • 尊厳死(Allow Natural Death ; AND) 
    従来のDNR(蘇生不要)の代わりとして一部の病院で使用される用語。DNRでは、呼吸や心拍が止まった場合に蘇生術をしないで欲しいということを明言する。尊厳死においては、苦痛や他の症状をコントロールする処置だけが確実に行われるように要望する。患児のQOL(Quality of Life ; 生活の質)を高めずに、亡くなるまでを引き延ばす蘇生術や、人工栄養や点滴などの処置を控える、または中止することを含む。人間が自然に亡くなっていく過程に干渉しない。親や患児自身が希望するのであれば、沢山の家族やともだちに囲まれて、穏やかで平和な気持ちで過ごせるように、あらゆる努力がなされる。

 

 DNR・DNI・ANDの要望書が効力を発する状況と、その場合に行われる医療行為についてよく理解するために、医療関係者と十分に話し合うことはとても重要です。また、DNR・DNI・ANDの決定は、いつでも変更や撤回することができます。 
 さらに、それらの要望が適用されると、確認のために治療チームは定期的に(数日間ごと、または毎週)患児の親と話し合いを行います。可能であれば、患児も話し合いに参加するように勧めており、患児の希望に沿うように配慮されます。
 「延命処置の回避となると、よい治療を受けられなくなるのではないか」と心配する親もいます。しかし、米国の多くの研究では、DNR・DNI・ANDの要望書に署名をして終末期ケアが始まった後も、それまでと同程度か、より多くの対応が実際には行われていることが分かっています。

 

「最後まであきらめずに治療を続けたい」と思っている場合

 患児や家族の中には、最後まであらゆる手段を尽くし、考えられる全ての薬剤や治療法を希望する人もいます。「あきらめない」あるいは「挑戦し続けたい」ということであれば、医学が提示できる全ての選択肢、機会、可能性について、治療方針を決める度に話し合うことが必要です。

 治療についてセカンド・オピニオンを求める家族もいます。また、病気によっては、臨床試験に参加できる医療機関もあります。患児と家族の依頼があれば、治療を受けるためにそのような施設を紹介してもらうこともできます。
 どんな決定をするにしても、リスクと利点を全て調べ、患児にとって一番良い選択をする必要があります。最も積極的な治療を求める場合であっても、患児の利益を最優先にし、治療中にできる限り快適に過ごせるようにすることが一番大切なことです。

 QOL(生活の質)と生命の終焉までの時間のバランスを取ることは、親と患児にとって大変難しい判断のひとつです。残された時間について親と患児がそれぞれどのような価値観を持っているかを知ることが大切です。費用の話もあるかも知れません。話し合いや、言動に注視することで、患児と一緒により相応しい決断を下すことができるのです。

 後になってあれこれ思い悩むのはよくあることです。時に、親は「間違った決断をしたのではないか」と不安になることがあります。しかし、何を決めるにしても、患児の希望と最善の利益を最優先に考えていれば、間違った決断をすることはありません。どのような決断であっても、親と患児が一緒にいる時間が限られていても、その時の知識、信頼できる人からの勧め、全てを考慮に入れて決めるのですから、患児への愛情を一番に表しているのです。

 

日本語版更新:20205
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