数ヶ月後から数年後に

INDEX

様々な理由から、父親と母親は全く同じような形で悲しむことはまずありません。働いていたり家の外で活動したりしている場合には、自分の配偶者だけではなく、他人に悲しみを打ち明けて話す機会があります。亡くなったお子さんの話題を持ち出すことで配偶者を傷つける懸念があると考え、むしろ他の人に打ち明ける場合があります。両親のどちらかだけが子どものことを心に留めておきたいと特に強く思っている場合には、夫婦間に葛藤を生じることになります。1年が経つうちに家族で過ごす夏休みや家族内の行事が一巡して事態は良くなるだろうと過度の期待を持っている親御さんもいらっしゃるかもしれません。

これは当てはまる場合とそうでない場合があります。2年目になると状況は多少良くなりますが、つらい記憶が消え去るわけではりありません。毎年起こると決まっているわけではない出来事は、逆につらい不意打ちとなります。実際に2年目の方がつらいと思うご家族もいます。それはお子さんが亡くなったことがもはや元に戻せないと実感されるためです。あるいは、周囲の親族や友人が、家族の心の痛みがどれほど続いているか慮るのをやめてしまったり、最適な方法がわからずにサポートする機会を減らしてしまったりするからかもしれません。数ヶ月経つと、多くの親御さん達は亡くなったお子さんのことを周囲の人たちがもう聞きたがっていないと感じます。2年目になると、両親はもっと前向きな姿勢を持つべきであり、前向きな姿勢でいる場合もそのペースをもっと速めるべきであるという見方をされます。また、周囲の人たちは、嘆き悲しんでいる親御さんに対して残された子どもたちや自分たちの未来に目を向けて欲しいと思います。

そうした親御さんにとって、亡くなったお子さんのことを親族や友人などに気兼ねなく話すことができるだけでなく、周囲の人たちからの追悼の気持ちも受けることができる方法の一つが”偲ぶ会”などを毎年開くことです。追悼イベントとしてウォーキング、ランニング、ゴルフなどの大会を行う場合、その準備期間中とイベントが終わった後の1ヶ月ほどは、亡くなったお子さんについて話すことやその記憶を思い起こすことが周囲の人たちにとっても前向きで受け入れやすいのです。また、このようなイベントを行うことで、自分たちの子どもが忘れられてしまうのではないかという大きな不安を軽くすることができます。

あなたの深い悲しみを解決する方法を見つけるためには、心理療法士やその他のメンタルヘルスの専門家、聖職者、あるいはこのような問題を支援する有志グループの助けを借りる必要があるかもしれません。お子さんが入院していたがんの治療施設、地元の小児専門病院、あるいはホスピスなどにこのような両親のための支援グループがあると思われます。このような支援について説明を受けていない場合には、問い合わせてみてください。他の人から話を聞いたり、インターネットで調べたりすると、がんで子どもを亡くした人たちのグループや、亡くなった原因や年齢を限定しない遺族のグループが見つかります。その際、最初に出会ったグループが必ずしも自分に「合っている」グループではないかもしれないということ、また、あなたはこのようなグループに入るための心の準備がまだできていないかもしれないということを理解しておいてください。グループに参加してみて自分に合っていないと感じたら、別のグループに参加してみるか、もう2~3ヶ月経ってから改めて参加するようにしましょう。

不安感や抑うつ症状に対する投薬が役立つかもしれませんが、薬を飲まないとやっていけないという気持ちになってはいけません。そのような場合には、速やかに薬の服用を止める必要があります。治療法については、一人ではなく複数の専門家と話し合ってください。薬を飲むと決めた場合には、よく気を付けて、必ず定期的なチェックを受けてください。かかりつけ医は、精神科の医師から定期的な投薬チェックを受けることを勧めるはずです。なぜならば、精神科の医師は副作用を最小限に抑えながら効果が現れる薬の種類と量についてよく知っているからです。また、精神科の医師は薬が必要なくなった時に、安全に服用を止める手助けもしてくれます。薬が処方されるだけということは稀です。むしろ、カウンセラーと話し合って推奨されるカウンセリングとの併用療法を用いることになります。

あなたが親として直面している悲しみを、残された他のお子さん達も同じように感じていることは紛れもない事実です。亡くなった子の想い出が彼らの心にも残っており、彼らはそのような想い出があなたの顔やしぐさ、涙の中に表れるのもわかります。子どもたちにもあなたと同じように専門家の助けが必要かもしれません。あるいは、同じような経験を持つ同年代の子ども達のグループの助けが必要かもしれません。稀ですが、子どもでも投薬が必要になる場合もあります。しかし、子どもにとって、特に年齢の高い子の場合、一番助けになるのは大抵は友だちです。

専門のカウンセリングを受けるように薦めても、初めのうちは見向きもしないか、必要がないとかそのような手助けを望んでいないというような答えが返ってくることでしょう。しかし、そのような態度をとっても、彼らがどうかしているわけではありません。何ヶ月もかかるかもしれませんが、年齢が高い子や思春期の子はカウンセラーに会うことや支援グループに入ることを最終的には望む場合があります。亡くなった子にまつわることや、行事や旅行などの写真に写っている楽しい想い出をオープンに話題にし、その子の名前を何度も口にすることで、その子の記憶が皆の中に生き続けます。

亡くなったお子さんを理想化すること(例えば「あの子が生きていたら、必ず・・・しただろう」とか、「あの子が生きていたら、絶対に・・・しなかったはずだ」などと考えること)は、残された兄弟姉妹に対して不公平であるだけでなく、亡くなったお子さんのことを知っている人にとっては非現実的なことです。あなたが兄弟姉妹それぞれの個性と長所を大事にしてあげるように常に心がけていないと、彼らは亡くなったお子さんと理不尽な比較をされたままで生きて行くことになります。かかりつけの小児科医は、兄弟姉妹の様子を公正に判断してくれます。兄弟姉妹がどう対処しているか不安な場合には、医師に専門的な意見を求め、あなた自身とお子さんのためにカウンセラーの紹介を依頼してください。

ページの先頭に戻る↑

複雑性悲嘆(抑うつ状態と心的外傷性反応)

愛する人を失うことによるつらい悲しみは避けて通ることができず、誰にでも起こるものです。子どもに先立たれた親は深い悲しみ、怒り、あるいは罪悪感を覚えます。我が子の死にいたるまでに起きたことを思い返しては、自分自身や周囲の人たちを責める気持ちになります。お子さんが亡くなった後2~3ヶ月以内に典型的なうつ病の症状が見られる親御さんもいます。亡くなった子の声が聞こえる幻聴や、人混みの中にその子の顔が見える幻覚を経験することもあります。こうした経験は、亡くなった子への思慕の情や諦め切れない気持ち、多くは子どもに戻ってきて欲しいという哀しい望みや、抑えきれないほどの激しい思慕の情から起こります。

これらは通常は我が子を亡くしたことに対する正常な悲嘆の反応です。正常な悲嘆の反応に対しては、慰めや、そのような悲しみが起きた時の状況の説明などが必要ですが、治療を必要とするほどではありません。しかし、その症状が長引き、しかも次第に悪化する場合には、「複雑性悲嘆(complicated grief、解決が困難な持続性かつ心的外傷性の悲嘆反応)」と呼んで、通常の悲しみと区別します。このような深い悲嘆は、抑うつ状態と心的外傷後ストレス障害(PTSD)の双方の特徴を併せ持っています。最も特徴的な症状は、子どものことやその残像が頭から離れない、子どもが亡くなったことを否定する、亡くなった子が生き返ることを想像する、絶望的な孤独感と無力感と辛さ、死んでしまいたいと思う気持ちです。(※訳注:「複雑性悲嘆(complicated grief)」とは、大切な人を亡くした悲しみが激しいままの状態が続いていること(6ヶ月以上)です。その死を受け入れられなかったり、いつまでもその人のことが頭から離れず日常生活が混乱したり、他の人との人間関係が崩れたりします。うつ病やPTSDなどの疾患が合併していることが多く、精神科的な治療の対象となります。)

「複雑性悲嘆」を発症するリスクは、その死がどの程度の心的外傷(トラウマ)として受け止められたかに左右されます。例えば、子どもを自宅に連れて帰るか、緩和ケアのみを受けさせるとはっきり決断した親御さんは複雑性悲嘆を発症するケースが少ないらしいことが一部の研究でわかってきました。積極的な治療を続けていても、末期には延命措置を回避することを決めた親御さんも複雑性悲嘆を発症するケースが少ないようです。要するにこの精神疾患は、心的外傷(トラウマ)を引き起こすような、心の準備がない状態で突然に予期しない形の死に遭遇した後に起こる可能性が高いのです。

葬儀に出席するか否か、亡くなった子の話をするかどうか、支援グループに参加するかどうか、薬を服用するか否かなどは全て、私達それぞれが不幸な出来事や失意と悲しみにどのように対処するかを明らかにして、個々で選択すべきことです。自分の子どもや兄弟姉妹、孫などを亡くした場合、通常の状態に戻るまでに長い時間を要する人もいます。専門家はかつてはその治癒に約1年かかると言っていましたが、現在では2年でもおそらく十分ではないことがわかっています。もっと長くかかる人もいますが、前向きに進みながら、昨日よりも良い日になるという希望と期待で毎日に臨んでいる人は、悲嘆に対処していると考えられます。このような前向きな行動が停止している場合や、人生が生きていくに値しないと思える場合、悲しみが日ごとに深くなっている場合には、複雑性悲嘆であることが考えられます。

複雑性悲嘆の治療は、通常、抗うつ薬あるいは抗不安薬の投与と心理療法を併用します。心理療法では、なぜこのような自責の念が消えずにどんどん大きくなっていくのかをもっとよく理解できるように、これまでに経験したことを親御さんが追体験するように導きます。また、親御さんは、悲しみに浸っているばかりではなく、亡くなったお子さんを裏切るような気持ちにならずに他の活動を楽しむことを考え始めるように勧められます。複雑性悲嘆には以上のような効果的な治療が可能です。心理療法的には、あなたが親として抱え続けている悲嘆に対して、あなたの配偶者や残された兄弟姉妹、他の家族がどのように向き合っているかを考えるように勧められます。止むことのない深い悲しみに苦しんでいるあなた自身や他の人たちにとって助けになる方法を見つけましょう。

 

【関連ページ】

前のページへ戻る