心理的な問題

小児がんの経験

小児がんの診断と治療は、患児とそのご家族に多くのストレスをもたらします。患児は、痛みをともなう治療や検査、度重なる入院、家族や友人たちと離れることに耐えなければなりません。ご家族は、大切な家族の一員が治るかどうか、苦痛を感じないためにはどうしたらよいかを心配し、憤り、悲しみ、無力感などをしばしば味わいます。また、生活が患児を中心に展開するため、その兄弟姉妹は無視されているようにも感じることがあります。患児とそのご家族は、それぞれ違った形でがん体験のストレスに対応していますが、不安や抑うつを感じる期間は共通しています。

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小児がんを経験した後の心理状態

がん治療の終了に伴って起こる様々な事態に直面するため、小児がん経験者とそのご家族は全く新しい心理状態に置かれます。治療終了後には、いろいろな感情が生じます。小児がん経験者が一人ずつ異なっているように、これらの感情もそれぞれに独自のものです。ずっと続く晩期合併症によって、診断時に体験したつらい出来事が頭から離れないかもしれません。新たな健康問題を診断されることで、落胆、憤り、不安、抑うつが生じることもあります。当然のことながら、多くの小児がん経験者とそのご家族はがんの再発を恐れています。

診断された日のような重要な節目となる日には、幸福、安堵、悲しみ、つらい記憶などの感情や、これらが入り交じったいろいろな感情がわき上がってくることがあります。悲痛な思いや、普通の子供時代を失ってしまったという思いがあるかもしれません。治療を受けている友人が亡くなった場合は、「生き残ったことへの罪悪感」が生まれる可能性もあります。また、小児がん経験者で、特に十代の若者の場合、“自分は無敵である”と感じ、がんを克服したのだから何でも克服できると信じてしまうことがあります。このような考えは不健全な行為や危険な行為につながる可能性があります。一方で、自ら味わった体験から、自分は特別に弱いのだと感じてしまう経験者もいます。

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小児がんを経験した後のストレスに対する反応

ほとんどの場合、小児がん経験者と家族の大半は、生涯にわたるがん治療の影響にうまく対処していますが、場合によっては、身体的な問題と心理的ストレスが医学的な配慮を必要とする不安や抑うつにつながることがあります。小児がん経験者は、治療に関する気持ちを乱すような記憶がきっかけとなって起こる「心的外傷後ストレス」(訳注:「PTSD」のこと)と呼ばれる極めて強い不安期を経験する可能性があります。心的外傷後ストレス症状は、衝撃的な出来事から何年も後に現れることがあり、戦争、爆撃もしくは自然災害など、人生を変えるようなつらい出来事を体験したことがある人々に出てくる症状と似ています。重症例では、抑うつや心的外傷後ストレスの症状が、人間関係や学業、仕事に悪影響を及ぼす可能性があります。

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心理的な問題のリスク要因

いくつかのリスク要因が小児がん治療後の心理的な問題を引き起こす可能性があります。リスク要因には次のようなものがあります。

  • 女性である
  • 抑うつ、不安もしくは精神疾患などの家族歴がある
  • がんの診断前から、心理的な問題があったか、学習に支障があった
  • 中枢神経系のがん(脳や脊髄の腫瘍)である
  • 中枢神経系を含めたがん治療(脳への放射線治療や抗がん剤の髄注など)を行っている

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助けを求める必要がある場合

抑うつと心的外傷後ストレスの一般的な症状を以下に記載しています。症状が2週間以上続いている患者さんやご家族は、メンタルヘルスの専門家を紹介してもらうべきかどうかを話し合うために担当医に相談する必要があります。がん治療は、人の気分に影響を及ぼしてこうした症状を引き起こす可能性があるホルモン欠乏症やその他の問題をもたらすことがあるため、かかりつけ医による検査をきちんと受けることをおすすめします。

抑うつと心的外傷後ストレスの症状

  • 過食、体重増加
  • 食欲不振、体重減少
  • すぐに泣く、もしくは泣くことができない
  • 慢性疲労、気力低下
  • 睡眠過多
  • 決断ができない
  • 絶望感、死・逃避・自殺について考える
  • 集中することができない
  • 不眠
  • 怒りっぽくなる
  • 活動に対する興味の低下
  • つらい記憶を何度も思い出す
  • 病気のことを考えると、取り乱したりおびえたり怒ったりする
  • 病気のことを考えると、頻脈や吐き気などの身体的な反応が生じる
  • 医療機関へ行こうとしない
  • 病気について話そうとしない

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治療の選択肢

メンタルヘルスの専門家(ソーシャルワーカー、臨床心理士、精神科医など)は様々な団体にいます。担当医にお願いしてカウンセラーを探してもらう方法もあります。不安や抑うつ症状の治療には、個人またはグループでのカウンセリングや薬物療法などがあります。通常は薬物療法に何らかの形でのカウンセリングを併用するのが最も効果的です。

がん治療後の合併症への懸念から不安や抑うつ症状が生じるときは、これらの感情が治療に関連するものであるかどうかを見極めるために、かかりつけ医やがんの専門医と話し合いましょう。病気とは関係のないその他の生活上の出来事によって不安になっている可能性もあります。いずれにしても、年齢を重ねるにつれて生じる健康上の問題のリスクをどのように減らしていくかについて確認しておきましょう。今まで重い病気の治療を全く受けたことがない人が、不安や抑うつ、さらには心的外傷後ストレスに悩まされるということはよくあります。これらの問題を解消するためには助けを求めることができます。心配事を周囲の人に話すことは、人生の困難な局面に対処していく上での第一歩となります。他の人たちから支えてもらうことは、小児がん経験者とそのご家族が良い意味で自分の感情に対処できるようになるための助けとなります。

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【参考情報】

米国には、がん経験者が利用できる支援団体やオンライン支援ネットワークが数多く存在します。ここに記載するものは利用できる情報源の中のごく一部に過ぎません。(※訳注:以下は全て英文サイトです。)

  • American Childhood Cancer Organization(米国小児がん財団)
    http://www.acco.org
  • Association of Cancer Online Resources, Inc (ACOR、オンラインがん情報協会)
    http://www.acor.org (インターネット支援グループのリストを多数掲載)
  • Patient Centered Guides (患児・経験者のためのガイド集)
    http://www.patientcenters.com/survivors

支援情報源の総合リストについては、「Childhood Cancer Survivors(小児がん経験者)」という本を参照できます。

A Practical Guide to Your Future(2000)(「あなたの将来のために役立つガイド集2000」)

by Nancy Keene, Wendy Hobbie and Kathy Ruccione, published by O’Reilly and Associates, Inc.

(第2章P.444~457を参照)

この本は、がん経験者の個人的ながん体験についてまとめたものです。

Adapted by Debra Eshelman [CPNP], from “Dealing with Emotions after Childhood Illness”

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