ゲノムデータと個人情報

 ゲノムデータの活用により期待できることは沢山あります。例えば、

  • 診断・・・原因となる遺伝子を特定して治療方針を決定する。
  • 治療・・・ひとりひとりに合った治療と治療薬を選択する。
  • 創薬・・・多くのゲノム情報の比較により、効果が高く、副作用のより低い治療薬をつくる。
  • 研究・・・新しい治療法の研究や、それに関わる人材の育成。

などです。

 がん領域では、がんゲノム医療中核拠点病院(12ヶ所)、がんゲノム医療拠点病院(33ヶ所)、がんゲノム医療連携病院(161ヶ所)が指定されています。これらを横断的につないで、全国で診療や研究に活用できる体制(ITインフラの構築、人材育成など)の整備が進められています。

 同時に、国際的連携による共同研究も不可欠となりました。わたしたちには、生活環境や人種など多様な背景があるためです。今では、世界中の研究者がデータを共有しながら研究を進めています。患者さんの検体や診療情報をバイオバンクに集積し、必要があれば海外の解析機関に送り、解析後のデータなどの情報を元に専門家が話し合いをする、といった具合です。そして、治療方針の決定を適切に行うため、国内の拠点病院や連携病院などが情報を共有します。

 

 ここで、「ゲノムデータをどのように取り扱うか」という課題が浮かび上がります。個人情報には、氏名、住所、性別などがありますが、「その人の設計図」でもあるゲノムデータも個人情報に当たります。

 

個人の「設計図」は、重要な「個人情報」

 患者さんひとりひとりの病状に合わせた治療は、まず患者さん自身のゲノムデータを提出し、パネル検査で網羅的に調べることから始まります。それは、その人の遺伝的な情報、例えば、「両親からどのような遺伝的情報を受け継いでいるか」「将来どのような病気にかかりやすいのか」「その病気は次の世代に遺伝するのか」など、その人個人だけではなく、家族にも影響を及ぼす情報でもあるのです。がんであれば、がんに関連する多くの遺伝子の状態を確認し、その患者さんのがん細胞の特徴を調べるのですから、遺伝性腫瘍の情報が得られる可能性もあるわけです。

 ゲノムデータには、ひとりひとりの過去、現在、そして将来の可能性に関する詳細な情報が含まれています。そして、その情報は交換できず、家族や次世代にも影響を及ぼすかもしれません。そのため、法と倫理面の整備や厳守、データを保管する場所や技術、そこに関わる人の育成が並行して進められています。
 個人情報の保護、知る権利、知らずにいる権利は最大限に保証されなければなりません。それと同時に、わたしたちは自身の情報が及ぼす影響をよく考えることが重要になります。

 

個人情報の保護

 2017年5月30日に改正個人情報保護法が施行されました。これは、個人情報を扱うすべての事業者が対象となります。この「個人情報」とは、「生きている個人の情報であって、氏名や生年月日、個人識別符号が含まれるものなど、その人が誰だか特定できる情報」を指します(改正個人情報保護法 第2条)。この「個人識別符号」の中に、「身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号」としてゲノム情報も含まれます。この法律では、個人情報の取得・利用、保管に加え、他人や海外にいる第三者へ渡す際のルールや、患者本人が情報の開示を求めてきた際のルールなどが定められています。海外の研究機関などに提供する場合、日本と同等の水準にあると認められている個人情報保護に関する制度がある国や地域を対象としています。
 ゲノムデータは、患者さんを直接特定できないよう記号や番号に置きかえ、診療情報と一緒に、厚生労働省が指定したバイオバンクに保管されます。研究に活用される場合、遵守するべき適正な法令や規定のもとで多くの審査を受けますが、その中にはデータを提供するバイオバンクによる審査もあります。

 何よりも大切なことは、「ゲノムデータの取り扱い方について、患者さん自身が同意していること」が前提です。

 

【参考】

経済産業省『個人遺伝情報ガイドラインと生命倫理』
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/bio/Seimeirinnri/index.html

厚生労働省『研究に関する指針について』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html

 

日本版更新日:2021年6月
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