網膜芽細胞腫

網膜芽細胞腫は、約2万人に1人の割合で小児に発生する稀ながんです。網膜と呼ばれる眼の一部分から発生します。網膜とは、眼球の後ろ側を覆う薄い膜状の神経組織であり、これがものを見ることを可能にします。網膜芽細胞(未熟な網膜細胞)は、網膜をつくるのに十分な細胞をそろえるため、妊娠中および乳幼児期に増殖します。通常は小児期になると細胞が成熟して分化と呼ばれる過程になり、細胞分裂や増殖は起こりません。

未熟な網膜芽細胞ががん化する原因は解明されていませんが、網膜芽細胞腫の発生にはRB1と呼ばれる遺伝子の両方のコピー(両親から受け継いだ1コピーずつ)に異常もしくは変異があることが不可欠だとされています。網膜芽細胞腫の小児の多くではこの変化が1つの染色体でのみ発生し、単一の腫瘍の発症を引き起こしています。もし両方の染色体に異常が起き、複数の腫瘍(片眼または両眼)が発見された場合は、生まれつきRB遺伝子の1コピーがすでに異常であったことを意味します。この異常もしくは変異がなぜ引き起こされるのかはよくわかっていません。
(※訳註:RB遺伝子は13番染色体の長腕にあり、2本の染色体上の同遺伝子の両方に異常が生じて機能が喪失すると網膜芽細胞腫になります。)

網膜芽細胞腫には、発生機序の異なる2種類があります。

遺伝性

網膜芽細胞腫の患児のうち約40%は遺伝性です。これらの患児では体内の全細胞において、一対のRB1遺伝子のうち片方に異常を持って生まれてきています。網膜の細胞も例外ではありません。何らかの原因でもう一方の遺伝子にも異常が生じると、網膜芽細胞腫が発生します。このような遺伝性の場合はすべての細胞がRB1遺伝子変異を初めから持っているので、もう片方のRB遺伝子に異常が起きて機能異常が生じやすいのです。

遺伝性の患児のほとんどでは、両親に網膜芽細胞腫はみられませんが、受精前から片方の親の卵子または精子に遺伝子異常が発生していたことになります。子どもが遺伝性の網膜芽細胞腫であったとしても、両親ともに腫瘍がみられなければ、この家族の次の子ども(患児の弟妹)に網膜芽細胞腫が発生する確率は1%未満です。しかし、遺伝性網膜芽細胞腫の患児本人の子孫にがんが発生するリスクは約50%あります。また遺伝性の場合、別の種類のがんを発症するリスクもあります。

遺伝性には以下のような特徴があります。

  • 2個以上の腫瘍がある可能性
  • 両眼性の腫瘍が多い
  • 体内の別の部位にも腫瘍を発症する可能性
  • 将来、別の種類のがんになるリスクが高い

非遺伝性

網膜芽細胞腫の過半数は遺伝性ではありません。これらの患児は体内の全細胞にRB1遺伝子の異常を持って生まれてきたわけではありせん。網膜芽細胞(未熟な細胞)の中にある一対のRB1遺伝子の両方に変異が生じたことにより、片眼にのみ腫瘍が発生します(片眼性)。発生の原因は解明されていません。非遺伝性の小児では、別ながんが発生するリスクは高くありません。また、彼らの子孫が網膜芽細胞腫を発症するリスクは、多くの一般の子ども達と同じです。

 

※ご参考
「すくすく」網膜芽細胞腫の家族の会

 

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