脾臓摘出術後の注意事項

脾臓は、左上腹部、肋骨に囲まれた腹腔内の胃の後ろ側に位置する臓器で、通常は人の握りこぶし位の大きさです。脾臓にある細胞は抗体を産生するとともに、血液中の細菌を取り除いています。これは身体が感染とたたかうのを助けます。

 

脾臓が機能しないことによるリスク

がんの治療時に脾臓が摘出されたか、脾臓に対して高線量(30グレイ以上)の放射線治療がなされた場合には、他の人に比べて重症の感染症に罹患しやすくなっています。このような感染症は直ちに治療しないと致命的です。脾臓が機能しない人に最も起こりやすい感染症は、被包性細菌(※)によるものです。一般的な被包性細菌は、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌などです。
(※訳注:カプセル化細菌とも言い、多糖類のカプセルで被われているために抗生物質が効きにくい細菌のことを言います。)

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感染の徴候とは

「発熱」はひとつの感染徴候です。多くの場合、発熱の原因はインフルエンザのウイルスによるもので、危険な細菌によるものではありません。しかしながら、血液培養(血液を採取し、その中に細菌がいるかどうかを調べる検査)が行われなければ、細菌による発熱かどうかを見分けることができません。残念なことに、いかなる施設においても血液培養結果が判明するまでには数時間から数日間を要します。ですから、少なくとも血液培養の結果が判明するまでは、発熱したら重症の感染症にかかったものとして抗生物質による治療を受けなければなりません

他の感染徴候としては、異常な倦怠感、筋肉痛、悪寒、頭痛、嘔吐、下痢、腹痛などがあります。これらの症状は熱がない時でも注意を要する徴候です。これらの症状がある時はかかりつけ医の診察を受けましょう。また、体調が悪い時は必ず定期的に体温を測りましょう。

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発熱時の注意事項

体温が38℃ 以上の時には、以下のことを行うべきです。

  • 直ちに医師による手当てを求めましょう。(既に抗生物質を内服している場合でも)
  • 全ての症状(前述のような症状)を報告しましょう。
  • 全血球数(CBC) と血液培養を行うための血液採取を受けましょう。
  • 少なくとも血液培養の結果が判明するまでは(静脈内または筋肉内への注入により)強力な抗生物質の投与を受けましょう。

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感染症予防のために

ワクチン(予防接種):

ワクチンは重症の感染症にかかる機会を減らす可能性があります。肺炎球菌、髄膜炎菌、およびHIB(インフルエンザ桿菌B型)に対するワクチンを接種することを推奨します。これら全てのワクチンを接種しているか、ブースト接種(第1回のワクチン接種後に追加で接種すること)の必要があるかについて、かかりつけ医に確認してください。

肺炎球菌ワクチンでは、すべての接種者において第1回の接種から3~5年後にブースト接種を受けるべきです。さらに追加のブースト接種を推奨する医師もいます。

インフルエンザウイルスの予防接種は、多くの医師が毎年受けることを推奨しています。これは、インフルエンザ感染の合併症として時々起こる細菌感染の危険性を減少させるためです。

また、ワクチン接種を受けていたとしても予防効果は100%ではないので、まだ感染の危険性があると認識しておくことも大切なことです。

抗生物質:

重篤な細菌感染症を予防するために、毎日、ペニシリンのような抗生物質の錠剤を予防内服するように勧める医師もいます。場合によっては、抗生物質の処方箋を手渡し、感染症の徴候が現れたらすぐに内服を開始するように説明する医師もいます。さらに、医学的な手当てを受けにくい地域へ旅行するときだけ抗生物質の処方を行う医師もいます。いずれにせよ、抗生物質を内服している、いないに関わらず、発熱、悪寒、またはその他の重篤な感染症の徴候をきたした際には直ちに医学的な処置を求めることが必要不可欠です。細菌に感染した場合は急激に悪化し得るため、たとえ数時間受診が遅れただけでも非常に危険な状況に陥る可能性があります。

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その他の注意事項

脾臓が機能しないと、以下のような感染症のリスクも高まります。

マラリア: マラリア頻発地域へ旅行するのであれば、マラリアに罹患しないように特別な注意を払う必要があります。旅行前に、かかりつけ医に抗マラリア薬を処方してくれるように頼みましょう。旅行中は防虫剤を使用し、防虫ネットや防護服の着用などの他の予防処置を講じましょう。

イヌによる噛み傷からの感染: イヌに噛まれると重篤な細菌感染症にかかる危険性があります。皮膚を破るような噛み傷を受けた時は直ちに抗生物質治療などの医学的な措置を受けましょう。

ダニからの感染: 脾臓が機能しない人は、鹿のダニによって媒介されるバベシア原虫による感染の危険性も増加します。これらのダニはアメリカ北西部やヨーロッパの一部で最も多く見られます(※訳注:これはライム病の原因菌とは違う種類のものです)。ダニの多い地域において外出する際は、防護服を着て、防虫剤を使用すべきです。バベシア原虫のいる地域でダニに咬まれた場合は、ダニを取り除いた上でどうすべきかをかかりつけ医に相談しましょう。

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医療機関の受診に際して

医療機関を受診する際には、脾臓が機能していないということを医師やその他の医療関係者に確実に伝えてください。医学的な注意を喚起するためのブレスレットを身に付けておくのも良いでしょう。そうすれば、救急搬送されて意思疎通ができない時でも、気付いてもらうことができます。また、脾臓が機能していない人の発熱時の対処ガイドラインを記載した、左記のような医療関係者宛のカードを携行することも推奨します。

※このカードの日本語版(PDFファイル)はこちらからダウンロードしてください。

 
 

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