甲状腺の問題

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小児がんの治療には、甲状腺に悪影響を及ぼす可能性があるものもありますが、影響が出たとしても、通常は容易に治療できます。定期的に検査を受ければ甲状腺の問題をいち早く発見できるので、適切な治療を始めることができます。

 

甲状腺とは

甲状腺は気管の正面、首の下のほうにあり、T4(チロキシンまたはサイロキシン)とT3(トリヨードチロニンまたはトリヨードサイロニン)という2種類のホルモンを産生しています。これらのホルモンは、成長や精神の発達で重要な役割を果たし、新陳代謝を整える手助けをしています。甲状腺は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)を産生する脳下垂体によって制御されています。脳下垂体は、血液中のT4とT3の濃度に対応してTSHを分泌しており、T4とT3の濃度が低い場合には、脳下垂体がTSHの産生を増やしてT4とT3の産生を増加させるように甲状腺に指令を送り、逆に濃度が高い場合には、脳下垂体はTSHの産生を減らして甲状腺ホルモンの産生を抑えるように指令を送ります。

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可能性のある問題

小児がんの治療による甲状腺への悪影響は、通常は脳や頚部への放射線治療によって起こります。そして、こうした悪影響は治療終了後何年も経ってから現れることがあります。甲状腺の異常には次のようないくつかの種類があります。甲状腺の働きが悪くなること(甲状腺機能低下症)、甲状腺の働きが活発になり過ぎること(甲状腺機能亢進症)や、甲状腺に良性腫瘍(腺腫)または悪性腫瘍(癌)ができること、などです。

甲状腺機能低下症は、甲状腺が十分に働かないことによって起こります。この症状は、小児がん経験者に起きる甲状腺の問題としては一般的なものです。甲状腺の働きが悪いと甲状腺ホルモンの値が低くなり、体全体の新陳代謝が低下します。

小児がん経験者に起こる甲状腺機能低下症には次の3種類があります。

原発性甲状腺機能低下症は、甲状腺の直接的な損傷によって生じます。原発性甲状腺機能低下症では、血液検査で高いTSH値を示します。甲状腺が損傷を受けたせいでT4とT3が正常値よりも低くなり、そのことに脳下垂体が反応してTSHの産生を増やすためです。

中枢性甲状腺機能低下症は、脳内にある脳下垂体の損傷によって生じます。この場合、血液検査の結果はTSH、T3、T4のいずれも低い数値を示します。血液中のT3とT4の濃度を適切に保つように甲状腺の活動を促すのに充分なTSHを脳下垂体が産生できないためです。

代償性甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの血中濃度を正常に保つために、脳下垂体が甲状腺に対して過剰に働きかけなければならない時に起こります。これは放射線治療後に一時的に生じる場合もありますが、一時的ではなく損傷によって甲状腺が機能しなくなる前兆である可能性もあります。代償性甲状腺機能低下症では、血液検査でTSHは正常より高い数値を示し、T3とT4は正常値を示します。代償性甲状腺機能低下症を発症した小児がん経験者には、甲状腺の負荷を減らすために甲状腺ホルモンを投与する治療が行われます。

甲状腺機能低下症の種類 TSHの血中濃度 T3とT4の血中濃度
原発性 高い 低い
中枢性 低い 低い
代償性 高い 正常

甲状腺機能低下症の徴候は、以下の通りです。

  • 疲労感やだるさ
  • かすれ声になる
  • 集中できない
  • 悲しみや気分が滅入る感じがする
  • 気分が変わりやすい
  • 便秘
  • 脱力感
  • 常に寒気を感じる
  • 目の周りが腫れぼったくなる
  • 正常な発育の遅れ
  • 思春期の始まりの遅れ
  • 顔と手のむくみ
  • 体重増加
  • 皮膚の乾燥
  • 髪が傷みやすくなる
  • 筋肉や関節の痛み
  • 心拍数が遅くなる
  • 低血圧
  • 高コレステロール値
  • 運動耐容力が落ちる

甲状腺機能亢進症は甲状腺が働き過ぎることによって起こります。この状態では甲状腺ホルモン値が高くなり、体の新陳代謝が速くなります。

甲状腺機能亢進症の徴候は、以下の通りです。

  • いらいらする
  • 不安な気持ちになる
  • 集中できない
  • 疲労感
  • 筋肉が弱くなる
  • 震え(振戦)
  • 頻脈または不整脈
  • 汗をかきやすくなる
  • 下痢
  • 体重減少
  • 月経不順
  • 眼球突出
  • 頚部の圧痛や腫張
  • 運動耐容力が落ちる

甲状腺腫や甲状腺癌は、甲状腺への放射線治療の後、何年も経ってから発生する腫瘍です。通常はいずれの場合もゆっくりと成長する無痛の頚部腫瘤(しこり)として始まります。大抵の場合、ほとんど症状はありません。

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問題を生じるリスクのある人

甲状腺に直接影響を及ぼすような放射線治療を受けた人は、原発性甲状腺機能低下症、代償性甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、甲状腺腫や甲状腺癌になるリスクがあります。次のような部位への放射線治療は、甲状腺に直接的な影響を及ぼす可能性があります。

  • 首(頚髄もしくはマントル照射)(※訳注:頚部・腋窩・肺門・縦隔のリンパ節への照射を「マントル照射」と呼びます。)
  • 頭部/脳(頭蓋)
  • 頭部/脳/脊髄(頭蓋脊髄軸)
  • 脊髄
  • 鼻、口、喉(上咽頭、中咽頭)
  • 胸部(縦隔、全肺)
  • 全身照射(TBI)(※訳注:「TBI」とは「Total Body Irradiation」の略で、全身のがん細胞を消失させるとともに、骨髄移植に先立って、拒絶反応を防ぐ目的で宿主の骨髄幹細胞を根絶やしにして免疫力を低下させるために化学療法と併用して行われる全身照射のことです。)

脳下垂体に影響を及ぼすような放射線治療を受けた人は、中枢性甲状腺機能低下症になるリスクがあります。以下の部位への放射線治療は、脳下垂体に影響を及ぼす可能性があります。

  • 頭部/脳(頭蓋)
  • 頭部/脳/脊髄(頭蓋脊髄軸)
  • 眼球/眼窩
  • 耳/側頭下部(頬骨の後ろの顔面中央部)
  • 鼻、口、喉のいずれかまたは全て(上咽頭、中咽頭)
  • 全身照射(TBI)

小児がんの治療終了後、甲状腺に問題が起こるリスクが高まるその他の要因は以下の通りです。

  • 女性であること
  • 高い照射線量で放射線治療を受けた場合
  • 幼少時に治療を受けた場合

甲状腺の問題は放射線治療の直後に生じることもありますが、通常は何年か経ってから起こります。すぐに治療を行えば甲状腺の問題は容易に管理できます。

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必要なフォローアップの内容

甲状腺の問題は、がん治療の終了後、何年も経ってから起こることがあるので、前述したようなリスクがある小児がん経験者に対しては年一回の定期検診が推奨されます。この定期健診には、幼少期と10代における発育状況の評価、甲状腺の触診、そしてTSHとT4の濃度を測定するための血液検査が含まれていなければなりません。成長が速い時期には、主治医が甲状腺の機能をさらに頻繁に経過観察することもあります。

甲状腺に問題が起きるリスクがあり、かつ、妊娠を予定している小児がん経験者の女性は、妊娠する前に甲状腺の機能を検査しておくべきです。甲状腺に疾患のある母親からは発育に問題のある赤ちゃんが産まれる可能性が高いため、妊娠する前に検査をしておくことが重要です。また、妊娠中に甲状腺の状態を定期的にチェックすることも重要です。

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治療方法

甲状腺機能に問題があることがはっきりしたら、継続的な治療のために内分泌専門医(ホルモン治療医)を紹介してもらいしましょう。甲状腺にしこりがある場合には、診断と治療管理のために外科医などの専門医を紹介してもらいましょう。甲状腺機能低下症はどのタイプも甲状腺の薬を毎日内服する治療を受けます。通常、治療は一生涯続きますが、代償性甲状腺機能低下症の場合には、甲状腺が正常に機能するようになって治療を終えられるケースもあります。

甲状腺機能亢進症には、いくつかの治療法があります。一時的な治療としては、甲状腺ホルモンの産生を抑えるための薬物治療が行われます。より恒久的な治療としては、 I-131と呼ばれる放射性ヨウ素の液体を内服し、過剰な甲状腺ホルモンを産生する細胞を壊して機能を抑える治療(※訳注:放射性アイソトープ治療と呼ばれます。)が一つの方法です。もう一つの方法は、手術によって甲状腺を摘出することです。どの治療法が最も良い選択肢であるかは主治医が判断します。なお、甲状腺機能亢進症の治療を行うことによって甲状腺機能低下症になってしまう可能性があります。その場合には、甲状腺ホルモンの薬を毎日内服すれば治療が可能です。

甲状腺腫 触診で甲状腺にしこりが触れられる場合には精密検査が必要です。こうした検査は通常、超音波検査(超音波を使って腫瘤を調べる)あるいは生検(癌細胞がないかどうかを確認するために甲状腺組織を採取して病理診断をする)により行われます。大きくなった結節は甲状腺癌になる懸念があるので、外科手術によって摘出します。

甲状腺癌の根治手術では、癌細胞だけでなく正常な甲状腺組織も取り除きます。全摘しない場合は、手術後、放射性ヨウ素(I-131)の内服による追加治療で、残っている全ての甲状腺組織を破壊する必要があります。甲状腺癌の治療後は、ほとんどの人が甲状腺ホルモンの薬を毎日内服することになります。

Melissa Hudson [ MD], Wendy Landier [CPNP]

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