骨髄移植(造血幹細胞移植)

INDEX

骨髄移植は、幹細胞移植、造血幹細胞移植、BMTなどとも呼ばれます。

骨髄は血液細胞が作られるところで、骨(特に腰の骨、肋骨、胸骨、脊椎骨)の中のスポンジ状の部分にあります。骨髄の中には最も若い段階の血液細胞があり、それは造血幹細胞と呼ばれます。造血幹細胞からは赤血球、白血球、血小板がつくられます。造血幹細胞は骨髄、末梢血(血流)および臍帯血の中に存在します。

骨髄移植は、がん化した幹細胞や傷ついた幹細胞を、正常な血液細胞へと分化できる幹細胞に置き換えます。骨髄移植はがん治療によって骨髄中の正常な幹細胞が破壊された場合にも行われます。骨髄移植を行うと幹細胞を入れ替えることができます。化学療法だけでは治癒の可能性が低い場合には骨髄移植も行なわれます。

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幹細胞移植の種類

骨髄移植には主に2種類があり、お子さんがどちらの移植を受けるかは診断に基づいて判断されます。

同種移植: 同種移植は、本人以外のドナー(※訳注:提供者)から骨髄または血液細胞が提供された場合に行われます。骨髄や血液の幹細胞は、血縁者や非血縁者のドナーか、または臍帯血から得ることができます。この移植は白血病や一部のリンパ腫の患者さんに行われます。

自家移植: 自家移植は、患者さん自身の骨髄や末梢血幹細胞を使用できる場合に行われます。骨髄や末梢血幹細胞を予め採取して凍結しておき、移植が必要になったときに解凍します。この移植は神経芽腫、ホジキン病、脳腫瘍などの固形腫瘍の患児に行われます。

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移植する幹細胞の入手方法

同種移植: 移植の第一段階は患児によく適合するドナーをみつけることです。適合するドナーは、ドナーの候補者に組織適合性検査を行って探します。組織適合性検査は、採取した血液標本で行います。この検査は、HLAタイピングとも呼ばれます。HLAとは「Human Lymphocyte Antigens(ヒトリンパ球抗原)」の略です。この抗原はリンパ球などの表面にあり、患児と同じ両親の兄弟姉妹であれば、組織のタイプが一致する確率は25%です。一般的に確率はより低くなりますが、両親のいずれかが一致する場合もあります。時には、完全には一致していない血縁者のドナーのものを使う場合もあります。

血縁者にドナーがみつからない場合、骨髄バンクを通じて適合する非血縁者のドナーを探します。非血縁者のドナーの幹細胞は、生存しているドナーの骨髄か凍結された臍帯血から得られます。主治医が、移植の緊急性、患者の体重、最もよく一致する組織型に基づいて、どのドナーの細胞が最も適しているかを決定します。

自家移植: 通常、自家移植では末梢血の幹細胞を採取しますが、骨髄の幹細胞を使用することもできます。末梢血幹細胞は、患者が化学療法を受ける前か、化学療法が1コース終了した後に採取します。末梢血幹細胞を集めるために、患児はまず末梢血幹細胞の数を増加させる薬剤(G-CSFやGM-CSFなど)の投与を受けます。

末梢血幹細胞はアフェレーシス(Apheresis)と呼ばれる方法で採取します。患児の血液をアフェレーシス装置内を通して循環させ、装置で幹細胞を含む白血球のみを分離して集め、赤血球などは再び患児の体内に戻すという操作が行われます。この過程には約4時間かかり、2~3日間連続して行う必要があります。特定の種類の小児がんでは、腫瘍細胞が患者の体内に戻るのを防ぐため、抗がん剤を使って末梢血幹細胞から腫瘍細胞を取り除く処理も行われます。

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骨髄移植の実施

移植承認の前に:

患児に対する最善の治療が骨髄移植であると決定すると、治療チームは手続きについて説明するために面談の機会を設けてくれます。彼らは、移植前、移植中、移植後に期待できることだけでなく、骨髄移植に伴う多くのリスクについても説明します。

患児が移植の厳しさに耐えられるだけの健康状態かどうかを確かめるために検査が行われます。実施されるのは、心電図(ECG)や心エコー検査(心臓超音波検査)を含む心機能検査、肺機能検査(患児が十分な年齢に達している場合のみ)、腎機能検査、肝機能検査および感染症の有無の検査などです。がんの種類によっては骨髄穿刺腰椎穿刺(脊髄穿刺)による検査も行なわれます。

患児が骨髄移植を受けるのに十分な健康状態であると考えられる場合、医師は胸部大静脈を利用できるように中心静脈カテーテルを挿入します。このカテーテルは治療中、血液、抗生物質などの薬剤のほか、新しい幹細胞を入れる際にも使われます。

移植前の準備:

患児は骨髄移植の前に「コンディショニング」と呼ばれる事前処置を受けます。コンディショニングでは大量化学療法が行われ、あわせて放射線の全身照射が行われる場合もあります。コンディショニングの種類と目的は患児の診断によって異なりますが、以下の通りです。

  • がん細胞の除去
  • 骨髄の中に新しい細胞のためのスペースを作っておくこと
  • 移植細胞が定着しやすいようにするための免疫系の抑制

よく使用される抗がん剤は以下の通りです。

  • シクロホスファミド
  • メルファラン
  • ブスルファン
  • エトポシド
  • チオテパ
  • カルボプラチン

骨髄移植:

コンディショニングがうまくいったら、カテーテルを通じて幹細胞を入れていきます。これは輸血によく似ています。移植された幹細胞は血流にのって全身をめぐった後に骨髄へ届き、新しい赤血球、白血球、血小板を作り始めます。

身体が感染症とたたかえるだけの血球(特に白血球)が作られるのに14~30日ほどかかる場合があります。骨髄移植後に新しい血球が確認され、白血球が増加することを「生着」と呼びます。それまで患児は感染症、貧血、出血などのリスクが高い状態にあります。十分健康な状態になるまで患児は入院を続けます。

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親御さんへのアドバイス

感染症や他の合併症のリスクが続くため、退院後も外来でのフォローアップが不可欠です。がんが再発するリスクは化学療法で治療した場合よりも骨髄移植を行った場合の方が低いですが、それでも再発の可能性はあります。再発はほとんどの場合、移植から数年以内に起こります。

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骨髄移植に副作用がある理由

コンディショニング、移植の実施、そして移植後と、骨髄移植は患児の身体に多大な負担を課します。免疫機能は基本的にコンディショニングの段階でなくなってしまいます。その結果、患児は移植直後から感染症や血液に関連する副作用のリスクが高くなります。しかし、注意深い経過観察、感染症を予防したり治療したりするための薬剤の投与、その他の支持療法を行うことで、ある程度快適に過ごせるようになります。

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移植直後に起こりやすい副作用

感染症: 移植前、移植中、移植後に非常によく起こります。

貧血(赤血球の減少)および血小板減少症: 新しい細胞がこれらを作れるほど十分に増えるまで、赤血球と血小板の輸液が必要です。

粘膜炎口内炎、咽喉炎): これらの症状を緩和させるには、静脈への栄養分や水分の輸液と痛み止め薬剤の投与を行います。この問題は通常、新しい細胞が患児の体内で成長すると共に改善します。

食欲不振吐き気: 体重が減らないように、静脈への点滴や胃へのチューブで栄養を補給します。薬剤の投与で吐き気を防いだり軽減したりすることができます。

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長期的なリスク

感染症: 患児の免疫系は骨髄移植後に破壊されており、戻るまでに何ヶ月も、場合によっては何年もかかります。したがって、細菌、真菌、ウイルスなどによる感染症を発症するかもしれません。一部の患児には予防のための抗生物質が投与されます。患児を感染症から守るためにはお見舞いを制限し、退院後は店などの混雑した場所を避けるなどの特別な予防措置が必要です。

移植片対宿主病(GVHD): GVHDは同種移植のドナーによる血液や骨髄の移植の場合にのみ生じます。T細胞(あるいはTリンパ球)という特定の種類のドナー細胞が患児の身体を「異物」と認識してしまうことで発症します(※訳注:自己以外の細胞を認識して、それを排除しようとする働きです)。この合併症を予防するために移植前に薬剤が投与されますが、それでも発症してしまうことがあります。

急性移植片対宿主病(急性GVHD): 移植後3か月以内に最も多く発生し、皮膚、肝臓、腸が影響を受けやすいです。皮膚には赤い発疹が現れ、かゆみや水泡を伴う場合があります。肝臓の症状としては、黄疸が現れたり、肝機能検査の数値が上がったりします。腸は、非常に重症の水様性の下痢が起こります。GVHDの治療にはステロイド剤のような薬剤が使用され、多くの場合はコントロールすることができます。

慢性移植片対宿主病(急性GVHD): 移植の数か月後のみならず、数年後でも発症します。一番多いのは、急性GVHDが継続した場合です。身体の様々な部位が影響を受けますが、皮膚は最も影響を受けやすい部位です。赤くなってうろこ状にはげ落ちたり、分厚くて固い皮膚になったりします。さらに、口腔粘膜の変化、ドライアイ、ドライマウス(口腔乾燥症)、関節の硬直、呼吸不全、食べ物から栄養を吸収しにくくなるなどの問題が生じます。また、免疫系に対するGVHDの影響のほか、GVHDをコントロールするために必要な薬剤の影響もあり、感染症のリスクが高くなります。

臓器毒性: 骨髄移植のためのコンディショニングとがんに対する初期治療が、肺、肝臓、腎臓および心臓に悪影響を与えることがあります。これらの影響は予測不可能であり、また、全ての患児が臓器毒性から回復できるとは限りません。

晩期合併症: 骨髄移植後、何年も経過してから晩期合併症が見つかる可能性もかなりあります。それは以下のようなものです。

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