網膜芽細胞腫の治療終了後
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治療終了後について
多くのご家族や患児にとって、治療の終了はとても嬉しいことです。これまで行われてきた様々な治療や厳しいスケジュールに耐える必要がなくなるという点で、「成功した」という気持ちや安堵感につながります。多くのご家族はまた、「困難を乗り越えて生き続けていること」への感謝の気持ちも経験します。
それと同時に、ご家族は新しい不安にも直面します。というのも、今後は医学的な経過観察や「新たな日常生活」に適応することが必要となります。そして、積極的な治療が終わったために、治療中は大きな支えとなっていた病院のスタッフや、がんとたたかう他の家族と定期的に関わることがもうありません。
この段階では、喜びのほか、不安感、急に突き放されたような感覚、あるいはこれらのいくつかが入り混じった感情など、ご家族によって異なる反応が生じます。同じ家族の一員であっても、治療の終了時に違う反応をしていることに気付くこともあります。親御さんはどうすれば自分達で子どもに最適な経過観察や手当てを提供できるのか、新たな不安をしばしば抱えますが、お子さん(特により幼いお子さん)自身は喜び以外の感情を抱くことはほとんどありません。
治療が終わる時に親御さんに最もよく起こる反応の一つは、がんが再発するのではないかという不安です。これは、治療中はプロトコール(※訳注:治療計画書)に従って薬剤の投与などの積極的な治療が行われていたのに、そのような治療が必要なくなり、代わりに経過観察のみが行われるようになったせいで起こります。治療や頻繁に行われていた検査がなくなると、病気と積極的にたたかっているという実感があまり湧かないからです。治療は終わり、過去の経験に基づいて安全が確認されているからこそ医師による経過観察の回数が減ってきているのだということを認識することが大変重要です。
小児がんの治療チームは、治療が終わる移行期にご家族が直面する困難を認識しています。親御さんは、治療が終わる時に今後のことを相談するための面談を予約しておくと、予期しておくべきことについての指導を受けられるので非常に役立ちます。治療が終わる時に親御さんが質問しておくべき内容は以下の通りです。
- 健康診断や検査などのために、どれくらいの頻度で医療機関を受診する必要がありますか?フォローアップのための受診はどれくらいの期間続ければ良いですか?
- どのような検査を受け続ける必要がありますか?それはどの位の頻度で、どの位の期間ですか?
- よくある普通の病気や「健康な子ども」と同じような手当てのためであっても、がんの治療チームに電話をすべきでしょうか?そうでなければ、このような場合にはどう対処したら良いでしょうか?
- 何か症状があって、それが普通の病気のせいなのかがんの病歴と関係があるのかわからない場合には、どうしたら良いでしょうか?
- がんが再発する可能性はどうでしょうか?再発するとしたら、一番可能性が高い時期はいつ頃ですか?また、がんの悪化で最も起こり得る兆候は何ですか?
- 水ぼうそうの人と接触してしまった時には病院に相談すべきでしょうか?
- 現在服用している抗生剤は、いつまで服用し続ける必要があるでしょうか?
- 中心静脈ラインはいつ取り外すことができますか?それはどのように行うのでしょうか?
- うちの子の免疫機能はいつ頃回復できますか?
- インフルエンザの予防接種は受けるべきでしょうか?
- 治療終了後に起こるかもしれないので注意しておいた方がよい典型的な症状や副作用などはありますか?
- 学校で問題が生じた場合にはどうしたら良いでしょうか?また、どのような問題が起こるかもしれないと気をつけておくべきでしょうか? 学校生活に適応できるように便宜を図ってもらうことに関して、治療チームや病院の教育コンサルタントにお手伝いいただけますか?
- 治療が終わる時に家族がよく経験する感情はどんなものですか?この新しい段階に適応するために必要な情報を得るための情報源は何かありますか?
- 長期フォローアップ計画はどのような内容ですか?治療とフォローアップについて書かれたサマリー(※訳注:病気や治療経過の概要を書いた書類のこと)をいただくことはできますか?
- うちの子には長期フォローアップ計画に基づいた経過観察が行われますか?それはいつ頃始まり、どこへ受診しに行くべきでしょうか?
- 成長に応じて成人向けの治療へと移行する際に役立つ情報源はありますか?
網膜芽細胞腫の晩期合併症
網膜芽細胞腫の晩期合併症は、以下の要因に大きく左右されます。
- 腫瘍の大きさ
- 受けた治療の内容
- 治療を受けた時の年齢
- 網膜芽細胞腫が遺伝性のものか否か(遺伝性網膜芽細胞腫の場合は、将来、他のがんを発症するリスクが高いです)
晩期合併症は、受けた治療の内容が摘出術(眼球の切除手術)、放射線治療、化学療法のいずれだったのか、あるいはこれらの組み合わせだったのかどうかによって異なります。起こりやすい晩期合併症についてもっと知るためには、眼科医や網膜芽細胞腫を治療したがんの専門医に相談してください。また、患児のかかりつけ医にも相談した方がよいでしょう。
小児がん経験者の親として知っておくべき非常に重要な情報源はいくつかあります。『小児がん経験者のための長期フォローアップに関するガイドライン(The Childhood Cancer Survivor Long-Term Follow-Up Guidelines)』 は、医療者向けに作られた総合的な健康管理スクリーニングのガイドラインです。
http://www.survivorshipguidelines.org (※訳注:英文サイトです)
医療者向けガイドラインのほかに、お子さんの長期的な健康に関する重要な情報について述べた「健康関連情報リンク(Health Links)」も掲載されています。英文サイトですが、お子さんの継続的な健康管理をサポートする広範囲な話題を取り扱っていますので、医療者と一緒に閲覧することもできます。
がんの種類に関係なく、全ての小児がん経験者は以下の事柄についてより多くの情報を知っておくことが有益です。
【参考情報】
米国では、視覚障害のある21歳以下の人に対して、地元の公立学区もしくは関連機関を通じてサービスが提供されています(個別障害者教育法PL 105-17に基づく)。場合によっては、学校内で特別な便宜を図る必要があります。そういう時には、個別の教育プランが役に立ちます。
網膜芽細胞腫治療後の眼疾患
放射線治療を外部照射で受けた患児には、以下のような合併症が起こることがあります。
- 白内障: 眼球の水晶体の混濁(※訳注:眼球の水晶体がにごること)
- 眼球陥没: 眼球が眼窩内に落ち窪んだ状態になること
- 角膜炎: 角膜の炎症
- 乾性角結膜炎: 乾燥による角膜と結膜の炎症
- 涙管萎縮: 眼から涙を排出する涙管が細くなること
- 視交叉障害: 眼から脳へ視覚情報を送る神経の損傷
- 眼窩形成不全: 眼球と周囲組織の発育不全
- 網膜症: 網膜への損傷。主な症状は、痛みを伴わない失明
- 毛細血管拡張症: 眼球の白目部分における血管の拡張
- 眼球乾燥症: 涙腺の瘢痕化
レーザー、温熱療法もしくは凍結療法、腫瘍部分への抗がん剤注入のような眼球への局所療法を受けた患者さんには、瘢痕化や視覚障害が起こることがあります。これらの問題は、受けた治療の総量と眼球内の腫瘍の位置に基づいてより明確になります。
眼球を除去する手術(摘出術)を受けた患児は、適した形状の人工眼球(義眼)を装着するように気をつけなければいけません。眼窩が適切に成長するように、時の経過とともに人工眼球を取り換えます。
網膜芽細胞腫の治療後に注意すべきこと
網膜芽細胞腫の治療を受けたことのある人なら誰にでも起こり得るこれらの合併症を監視するために、少なくとも年1回は眼科医による精密検査を受けるべきです。
そして、眼球をこれ以上傷つけないようにすることが大切です。以下はそのための注意事項です。
- 明るい日差しの中では紫外線をカットするサングラスを着用しましょう。
- スポーツをする際、または電動工具や有害化学物質を使用する際には、目を保護するためにめがねやゴーグル等を着用しましょう。
- 先のとがった玩具や花火のように目を傷つける可能性のある物で遊ばないようにしましょう。
- 不慮の事故による負傷を避けるために、いかなる種類であっても花火で遊ぶのはやめましょう。
米国版の更新時期: 2011年9月
日本版の更新時期: 2012年3月