ゲノム創薬とオーダーメイド医療
ゲノム情報を活用して、病気の診断や治療、新しい治療の実現に向けた研究も行われています。日本においては2030年頃までの目標としてゲノム医療による発がん予測診断、抗がん剤の治療効果の有無、副作用の予測診断の確立などが挙げられています。
ゲノム創薬
2003年にゲノム情報が解読され、創薬に新たな扉が開きました。病気に関係する遺伝子やタンパク質の情報を得ることが、ひとりひとりの体質と有効性が高く副作用を予防できるような治療薬の開発につながります。
従来の新薬開発では、膨大な数の化合物から治療薬の候補を見つけ、試験を何度も重ねて効果や安全性を確認し、国の認可を経て患者さんのもとに届けられます。がん治療薬であれば、臓器別にこのプロセスを経て開発します。しかし、1つの新薬の開発期間は約9~16年、成功率はわずか約25,000分の1程度です。つまり、膨大な労力、経験、年月、費用が必要なのです。
ゲノム創薬では遺伝子異常に応じて治療薬を考えます。ゲノム情報から、病気の原因となるタンパク質と、治療薬候補となる化合物の絞り込みをすることで、時間や費用を抑えた創薬が可能になります。遺伝子の配列が解明された今、多くの製薬会社や研究機関が、それぞれの病気と遺伝子変化の関係について研究しています。病気の原因に直接作用すれば、薬剤の効果をより高めることになります。現時点では、ゲノム創薬の技術を用いた分子標的薬が実現しています。また、複雑な段階を経て発症する病気であれば、その段階ごとに合った治療薬の開発も期待されています。
研究の幅が広がることで、ひとりひとりの遺伝子情報を元に、体質や病状に合わせた治療である「オーダーメイド医療」につがる、と考えられています。
オーダーメイド医療
例えば、個人の体質によってお酒に強い・弱いがあるように、同じ治療薬でも個人により効き方が異なります。このような個人差は、主に遺伝子の違いから生じます。これらの遺伝子の違いは、両親から受け継いだ生まれながらのものと、ある日突然変化が生じるものがあります。
近年、これらの遺伝子の違いを調べることによって、治療薬の副作用や効果の有無が分かるようになってきました。その人の体質や病状に合った治療方法や治療薬を選ぶような診断・治療のことを「オーダーメイド医療」(※)と呼びます。
(※)オーダーメイド医療は和製英語で、テーラーメイド医療、個別化医療、カスタムメイド医療とも呼ばれています。
2003年から2018年3月末まで、「オーダーメイド医療の実現プログラム(現・ゲノム研究バイオバンク事業)」が実施されました。これは、病気の詳しい原因解明を通して、新しい治療方法や治療薬を開発するとともに、遺伝子の特徴が合うか合わないかを調べて副作用を回避するような「オーダーメイド医療」の実現を目指したものです。このプロジェクトの対象となった疾患は、がんも含め38疾患あります。
オーダーメイド医療の研究や応用は、主にがん疾患を中心に行われてきました。それは、1981年以来、日本人の死亡原因の第1位ががんである、という背景があるからです。「がんゲノム医療」で多数の遺伝子を同時に調べ(がん遺伝子パネル検査)、その患者さんにとって一番効果が期待できる治療薬を選択するという、医療の個別化が近づいています。
【参考】
日本製薬工業協会『薬の役割と未来』
http://www.jpma.or.jp/medicine/med_qa/info_qa55/q46.html
文部科学省『オーダーメイド医療プロジェクト』
https://biobankjp.org/cohort_1st/public/doui.html