治療後の肝炎
肝臓のウイルス感染による炎症は「肝炎」と呼ばれています。
『ウイルス性肝炎は、A、B、C、D、E型などの肝炎ウイルスの感染によって起こる肝臓の病気です。A型、E型肝炎ウイルスは主に食べ物を介して感染し、B型、C型、D型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。中でもB型、C型肝炎ウイルスについては、感染すると慢性の肝臓病を引き起こす原因ともなります。』
厚生労働省『ウイルス性肝炎について』より
小児がん経験者が特に気をつけるべきは、血液を媒介としてウイルスに感染するB型肝炎とC型肝炎です。小児がんの治療では、輸血や血液製剤の投与が必要になることがよくあるからです。
1989年のスクリーニング検査以前(訳注1)は、血液製剤の中に、肝臓に感染するウイルスも含まれていることもありました。そのため、これ以前に血液製剤の投与を受けた小児がん経験者は、これらのウイルスに感染した可能性があります。
また、一般的に、輸血以外の血液との接触(下記『リスクがある人』をご参照ください)によっても、B型肝炎やC型肝炎が拡がる可能性があります。
肝炎ウイルス感染者との性行為や、出産で感染者の母親から新生児にうつることもあります。こうした感染は、一般的にC型肝炎よりもB型肝炎の方がはるかに高頻度です。
このページでは、小児がん経験者を中心に、『肝炎』に関する一般的な説明をしています。
肝炎の徴候と症状
最初に肝炎ウイルスに感染した時(急性期)、B型肝炎もC型肝炎も症状がほとんどありません。しかし、一部の人には倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、微熱などの風邪に似た症状があります。黄疸の進行にともない(白目や皮膚が黄色くなる)、濃い色の尿、激しいかゆみ、あるいは薄い色(粘土のような色)の便のように、肝臓に直接関係のある症状を経験する人もいます。また、極めて稀ですが、症状が非常に重くなり(劇症肝炎)、肝不全を引き起こす場合もあります。
肝炎は、治療により落ち着いた状態にすることは可能です。ただ、残念なことですが、幼年期にB型肝炎やC型肝炎に感染した人の多くは「慢性的な」感染となります。慢性肝炎は自覚症状が何もなく、元気に感じるかもしれませんが、長期間に及ぶ感染は肝臓の損傷を進行させる原因となります。肝臓が損傷を受けた際の徴候は、肝臓と脾臓の腫大、腹部膨満感または腹水の貯留、白目と皮膚が黄色くなること(黄疸)、血液凝固因子の機能低下、肝臓の瘢痕化(肝硬変)があり、他の合併症を併発するリスクがあります。稀に、肝臓がんを発症することもあります。また、慢性肝炎の人にはウイルス感染を他の人へとうつしてしまうリスクもあります。
肝炎の検査方法
肝炎ウイルスの有無は血液検査でわかります。
- B型肝炎ウイルスの検査は「HBs抗原検査」です。
- C型肝炎ウイルスの検査は「HCV抗体検査」です。陽性と出ても、必ずしもC型肝炎というわけではありません。感染した後にほとんどのウイルスが自然に体外に出ており、慢性肝炎に移行しない、という場合もあります。そのため、HCV抗体が陽性の場合には、「HCV-RNA検査」で、C型肝炎ウイルスの遺伝子(HCV-RNA)の有無を調べます。
リスクがある人
・供給される血液のスクリーニング検査が開始される以前に輸血を受けた人
・以下の血清製剤を投与された人
- 濃厚赤血球
- 全血
- 白血球(顆粒球)
- 血小板
- 新鮮凍結血漿
- クリオ製剤(※訳注:かつて血液凝固第VIII因子欠乏症である血友病Aの患者さんに対して止血のために用いられていた製剤。全血輸血から第VIII因子濃縮製剤に至る間の過渡期に使用されました。)
- 免疫グロブリン製剤
- 同種移植のドナー(自分自身以外の誰か)から受けた骨髄あるいは幹細胞
・その他
- 血液凝固因子濃縮製剤(第VIII因子あるいは第IX因子の濃縮製剤)の使用
- 臓器移植(腎臓、肝臓、心臓などの移植)
- 長期間に及ぶ(少なくとも数か月以上続く)腎臓透析
- ピアス、入れ墨
- 肝炎の人とカミソリ、爪切り、歯ブラシなどを共有すること
- 職業上、血液や体液に接する機会がある人
- 複数の相手との性行為、感染を防ぐ手立て(コンドームの使用など)を講じない性行為など
リスクに備えるために
- B型肝炎やC型肝炎のリスクがある人は、感染の有無を調べるために血液検査を受ける必要があります。血液検査の結果が慢性肝炎の感染を示している場合には、少なくとも年1回の血液検査や、肝臓の専門医による継続的な診察(多くの場合は治療も)を受けることになります。
- A型肝炎やB型肝炎ウイルスにはワクチンがあります。C型肝炎については、現時点ではウイルスを防ぐワクチンはありません。
それぞれの肝炎のリスクや免疫検査、ワクチン接取については、主治医と相談しましょう。
《参照》『肝臓の健康』
慢性肝炎に感染している場合
- 詳しい診断と治療のために、肝臓の専門医の診察を受けましょう。
- 飲んでいる市販薬やサプリメント全てについて主治医に知らせましょう。
- アルコールを控えましょう。
- アセトアミノフェンが含まれている鎮痛剤や解熱剤(「タイレノール」などの非アスピリン系の薬)は服用を避けましょう。
- 予防接種について医師と相談しましょう。
- 妊娠中の女性は、産科医や小児科医も含めた担当医と肝炎の状態について話し合っておきましょう。
感染拡大をさせないために
B型肝炎やC型肝炎は、抱き合ったり握手したりするような日常的な接触では感染しません。しかしながら、B型肝炎やC型肝炎に感染している場合には、他人に肝炎をうつさないために以下の点を心掛けましょう。
- 自分の血液や体液を他人に直接触れさせないようにしましょう。
- 飛散した血液や体液は漂白剤でふき取りましょう。
- 切り傷やその他の傷口は覆うようにしましょう。
- カミソリ、歯ブラシ、爪切り、ピアスなど、血液に接触する可能性があるその他の鋭利な物を他の人と共用しないようにしましょう。
- ピアスの装着、注射、鍼治療においては新しい殺菌された針が使われることを確認しましょう。また、絶対に針の使い回しをしないでください。
- 同居家族や交際相手がB型肝炎の免疫を持っているかどうかを確認しましょう。免疫がない場合には、B型肝炎ワクチンの接種が必要です。
- 性行為の際は、肝炎ウイルスの感染を防ぐ手立て(コンドームの装着など)を講じましょう。交際相手が肝炎の検査をするべきかどうかを医師に確認しましょう。
※訳注:
日本におけるB型肝炎ウイルスのスクリーニング検査は、1989年12月から、従来のHBs抗原検査に加えて、HBc抗体検査が導入されたことにより、輸血後のB型肝炎、特にB型劇症肝炎はごく例外的にみられる場合を除いて、ほとんどみられなくなりました。
C型肝炎ウイルスに関しては、1992年以前に輸血や臓器移植手術を受けた方は、 C型肝炎ウイルスに汚染された血液か否かを高感度で検査する方法がなかったことから、感染している可能性が一般の方より高いと考えられます。
1994年以前にフィブリノゲン製剤の投与を受けた方(フィブリン糊としての使用を含む)、または、1988年以前に血液凝固第VIII、第IX因子製剤の投与を受けた方は、これらの製剤の原料である血液のウイルス検査、C型肝炎ウイルスの除去、不活化が十分になされていないものがあるので、同じくC型肝炎ウイルスに感染している可能性が一般の方より高いと考えられます。
B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス共に、1999年10月からPCRを用いた核酸増幅検査(NAT)によるHCV-RNAの検出が全面的に導入されたため、現在は安全性が一段と向上しています。詳しくは、厚生労働省のホームページをご覧いただくか、主治医に相談してください。)
日本版更新:2022年8月