ウィルムス腫瘍などの腎腫瘍の治療

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ウィルムス腫瘍の治療では、過去25年にわたって多くの進歩が得られてきました。10人の子どものうち9人が手術化学療法、場合によっては放射線治療で治癒しています。

治療の改良は主として米国小児がん研究グループ(Children’s Oncology Group、略称:COG)、それ以前は米国ウィルムス腫瘍研究会の研究によって成し遂げられました。米国では今やウィルムス腫瘍のほとんどの患児が臨床試験に登録して治療を受けているので、治療法はさらに改善される可能性があります。

ウィルムス腫瘍は比較的稀な病気です。したがって、小児がんの症例経験が豊富な医療施設で診てもらうことが重要です。治療が行われる医療施設に小児がんの専門医がいるのはもちろんのこと、小児科医を含む治療チームによって治療が行われることが推奨されます。ひとたびウィルムス腫瘍が発見されたら、一刻も早く治療を始めるべきです。ウィルムス腫瘍は多くの場合、発見されるまでに非常に大きくなっており、また、これらの腫瘍はさらに急速に成長する傾向があるためです。

がんが身体の他部位まで広がっている(転移している)としても、最初の治療目標は腎臓や主要な臓器から腫瘍を取り除くことです。時として、直ちに手術で取り除くには腫瘍が大きすぎる場合や、近くの血管や他臓器に広がっている場合、両方の腎臓に見つかる場合もあります。これらの患児に対しては、腫瘍を小さくするために手術の前に化学療法を行うことがあります。

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手術

手術はウィルムス腫瘍に対する治療の中心です。ウィルムス腫瘍で最も多い手術は「根治的腎摘出術」と呼ばれます。この手術で医師は腎臓全体と尿管(腎臓から膀胱へと尿を運ぶ管)、腎臓周囲の脂肪組織と一緒に腫瘍を摘出します。

「根治的腎摘出術」の際、領域リンパ節の標本採取が行なわれ、医師は腎臓近傍のリンパ節を摘出します。リンパ節は免疫系の一部である豆ほどの大きさの器官で、身体が感染とたたかうのを助けます。多くの腫瘍はリンパ節へと広がります。リンパ節の標本採取は腹腔内にどの程度腫瘍が広がっているかを判定するのに役立ちます。

肝臓と反対側の腎臓も手術中に検査します。いずれの疑わしい部位も、顕微鏡で病理組織学的検査をするための組織標本を採取する生検が行われます。

胸部X線検査やCTスキャンのような画像検査が肺への転移を示唆する場合、医師はさらに組織標本を採取するか、あるいはその腫瘍を手術で切除します。手術は、胸壁の別々の箇所を小さく切開し、そこから特別な操作をする胸腔鏡を入れて行うこともあります。この手術はビデオ補助胸腔鏡手術(VATS)と呼ばれ、最も少ない侵襲で肺の腫瘍を切除することができます。

リンパ節、肝臓、もう片方の腎臓にウィルムス腫瘍が広がっていないかどうかを知ることは、治療法の選択と同様、病気の進行度を判定する際に重要です。

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化学療法

化学療法は全身的な治療です。がん細胞を破壊するために、体内を循環する血管内に抗がん剤を投与します。化学療法はウィルムス腫瘍の患児全てに対して、以下のような目的で行われます。

  • 手術で切除するには大きすぎる腫瘍をあらかじめ小さくしておくため
  • 手術後、血流にのって体内を循環している可能性がある全ての腫瘍細胞を破壊するため(補助療法と呼ばれます)
  • 腎臓以外の臓器まで広がってしまった腫瘍を治療するため

抗がん剤は、ウィルムス腫瘍の種類や病期によって異なる組み合わせ、量、回数で静脈内に注入されます。化学療法は通常は小児がんの専門医から指示が出され、看護師が投与を行います。ウィルムス腫瘍のための化学療法のほとんどは外来で受けることができますが、入院しなければならない場合もあります。

化学療法はがん細胞を破壊しますが、正常な細胞の一部も破損します。副作用を回避したり最小限にとどめたりするために慎重な処置が行われます。化学療法の副作用は、薬の種類、投与量、およびそれらが投与された期間によって異なります。患児に何か副作用がある場合には、治療チームに伝えることが重要です。副作用のほとんどは対処が可能であり、他の薬を使うことで予防することもできます。

 病期ⅠおよびⅡの腫瘍の治療

ウィルムスの治療に使用される抗がん剤は、病期で決まります。予後良好な組織型である進行していない病期(病期ⅠおよびⅡ)の場合は通常2つの抗がん剤、ビンクリスチンとダクチノマイシンで治療します。これらの薬は、最初は1週間毎に、その後は2~3週間毎に静注(静脈内への投与)します。病期Ⅰ~Ⅱの腫瘍に対する化学療法は、その全てではないにしても、大部分が外来で投与され、通常入院は必要ないほど副作用が軽度です。予後良好な組織型の病期Ⅰ~Ⅱにおいては放射線治療の必要はありません。

 病期ⅢおよびⅣで、予後不良の組織型の腫瘍の治療

病期ⅢおよびⅣで予後不良の組織型のウィルムス腫瘍は、腎明細胞肉腫、悪性ラブドイド腫瘍と同様に、病期や組織所見に応じて3種類以上の抗がん剤を使って治療を行います。また、腹部やその他の転移部位に対しては放射線治療が行われます。化学療法は静脈に投与しますが、通常は外来で治療を受けることが可能です。より重大な副作用がある場合には入院が必要となります。

強力な化学療法に関連するリスクは以下の通りです。

  • 輸血や血小板輸液などの処置が必要なほど血球数に変化が起こる可能性が高いです。
  • 発熱および感染のせいで、抗生物質投与のための入院が必要になる可能性があります。

より進行した病期の腫瘍に使用される薬は、ビンクリスチン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、カルボプラチン、エトポシド、稀にイホスファミドです。使用される薬の選択は病期と最新の臨床試験の実施計画書(プロトコール)などによって決まります。

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放射線治療

放射線治療では、がん細胞を破壊するために高エネルギーの放射線を利用します。外照射療法は体外にある放射線源を使ってがんにエネルギーを集中させます。この種の放射線治療は、腫瘍が腎臓を越えて広がったか、手術で完全に取り除くことができない、より進行したウィルムス腫瘍(病期Ⅲ、ⅣおよびⅤ)の場合に、しばしば手術と併用されます。予後不良の組織型の場合のみ、病期ⅠおよびⅡでもこの治療が行われます。

放射線治療の副作用には以下のようなものがあります。

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腎腫瘍の原因

今のところ、ウィルムス腫瘍やその他の小児腎腫瘍を引き起こす原因はわかっていません。

ただし、わずかな腎腫瘍のリスク因子がわかっています。特定の遺伝性疾患(症候群)を伴っているか出生時に異常があったお子さんは、他の子よりもウィルムス腫瘍を発症しやすい傾向があります。これらは具体的には、無虹彩(眼の有色部分である虹彩の欠如)、尿路の異常、片側肥大症(身体の片側だけが大きい)、ベックウィズ・ヴィーデマン(Beckwith-Wiedemann)症候群、パールマン(Perlman)症候群、デニス・ドラッシュ(Denys-Drash)症候群、シンプソン・ゴラビ・ベーメル(Simpson-Golabi-Behmel)症候群などです。このようなお子さんはウィルムス腫瘍のリスクがより高くはなりますが、ウィルムス腫瘍全体のごく一部分を占めるに過ぎません。これらの症候群は腫瘍の発生に関係なく通常の受診が必要なので、お子さんがこうしたケースの一人であるかどうかが親御さんには必然的にわかります。ウィルムス腫瘍の診断が下りるまでは気づかなかった、生まれつきの尿路の異常が見つかる場合もあります。

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臨床研究(臨床試験)

米国では、がんの患児の大部分が臨床研究(臨床試験)に参加しています。このような参加率の高さは小児がんの治癒率を改善するのに不可欠です。 研究者は、治療法を改善し、かつ、がんの性格とその原因について理解を深めるために様々な研究を計画します。臨床試験は慎重に審査され、誰でも登録できるようになる前に正式な科学的手順を経て承認されなければなりません。登録中の臨床試験で、お子さんに“適格性がある”場合には、参加するように依頼されるかもしれません。複数の研究に参加するように依頼されることもあります。

特定の研究への適格性があるかどうかは、年齢、がんの部位、病気の広がりやその他の情報によって判断されます。通常、科学的に有効な研究を行うために研究者は研究対象者が的確かどうか厳密に調べなければなりません。さらに研究者は研究の間、厳密に同じ制約に従わなければなりません。

患児に複数の研究(臨床試験)への適格性がある場合、主治医はそのことについてインフォームド・コンセントのための面談(カンファランスと呼びます)を開いて親御さんと話し合います。親御さんがお子さんを研究に参加させたいと思っているか否かに関係なく、主治医は参加することによる潜在的なリスクや、親御さんが決断するために必要なその他の情報について説明してくれます。研究に参加するかどうかをいつでも選択することができます。

お子さんを研究に参加させることを選んだ場合、主治医はその研究の結果からどのような情報を得ることができるのかを説明します。研究の最終的な結果は、一般の方および他の研究者に知らせるために公表されます。どのような研究においても個人が特定されるような情報は公表されません。

様々な種類の研究について詳しく知るためには、このウェブサイトの臨床研究(臨床試験)の項目を参照してください。

米国版の更新時期: 2011年7月
日本版の更新時期: 2012年3月

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