女性の健康上の問題

小児がんの治療が女性の生殖能力に与える影響については、治療を受けた年齢、がんの種類と部位、どんな治療を受けたかなどの様々な要因によって変わってきます。まずは、女性の卵巣や生殖器官がどのように機能し、そして小児がんの治療がどのように影響するかを理解しておくことが重要です。

女性の生殖器官

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生まれた時に女児の卵巣には既に一生涯分の卵子が存在しています。思春期を迎える頃、脳にある脳下垂体が2種類のホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)を分泌し、卵巣に指令を送ります。そして、卵巣は生殖機能に必要な女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンを分泌します。1回の月経周期においては少なくとも1個の卵子が成熟して卵巣から排卵されます。卵子が受精しなければ、月経が始まり、28日ごとにその周期を繰り返します。月経の1周期ごとに卵子は減っていき、ほとんどの卵子が卵巣から排出されてなくなった時に閉経します。閉経期においては、月経が終了し卵巣はホルモンの分泌をやめるため、もはや妊娠することはありません。

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卵巣に及ぼす影響

ある特定の抗がん剤や放射線治療、手術は、卵巣に悪影響を及ぼし、卵子の数を減少させることがあります。卵巣が卵子を作ることができない場合、あるいはホルモンを分泌できない場合を卵巣機能不全と呼びます。

卵巣機能不全の原因

抗がん剤: 「アルキル化剤」タイプ(例えば、シクロフォスファミド、ナイトロジェンマスタード、ブスルファンなど)の抗がん剤は、卵巣機能に悪影響を与える度合いが最も高いものです。卵巣が受けた損傷の度合いを判定するには、治療中のアルキル化剤の総投与量が重要です。総投与量が多くなるにつれて、卵巣が損傷を受ける可能性も高くなります。また、小児がんの治療にあたり、化学療法と放射線治療の両方が組み合わされると、同じように卵巣が損傷を受ける可能性が高くなります。

放射線治療: 卵巣機能に悪影響を及ぼす可能性があるのは、以下の2つの場合です。

  • 卵巣への直接もしくは卵巣周囲組織への放射線治療は、卵巣の一次的な(直接的な)機能不全を引き起こします。
    放射線治療が卵巣に損傷を与えるかどうかは、治療が行われた時の年齢と総線量によります。一般的には、同じ線量であっても、10代や成人に近い年頃になってから治療を受けた場合に比べて、より年少時に治療を受けた場合の方が影響が少ない傾向があります。
  • 脳への10~20グレイ以上の放射線治療は、通常、二次的な(間接的な)卵巣機能不全を引き起こす可能性あります。
    脳の中心にある下垂体は、卵巣が正常に機能するために必要な2つのホルモン、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)の分泌を制御しています。脳への放射線治療、特に30グレイ以上の照射が行われた場合には、脳下垂体に損傷を与える可能性があり、その結果、これらのホルモンの分泌が減少する場合があるためです。

外科手術: がんの治療のために両方の卵巣を摘出した場合には、必ず卵巣機能不全になります。この種類の卵巣機能不全は「外科的閉経」と呼ばれることもあります。

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卵巣機能不全のリスクが高まる治療

過去に次のような治療を受けた女性には、卵巣機能不全のリスクがあるかもしれません。

下記の部位に対する放射線治療

  • 腹部(傍大動脈を含む)
  • 骨盤(腸骨・鼠径部を含む)
  • 脊髄
  • 逆Y字照射(※訳注:放射線の照射方法の一つで、下半身のリンパ節に照射する場合に用います。) もしくは全リンパ節照射(※訳注:頚部、腋窩、肺門および縦隔リンパ節への照射を「マントル照射」と呼び、 マントル照射に脾臓と上腹部および骨盤内リンパ節への照射を加えたものを「全リンパ節照射」と呼びます。)
  • 全身照射(TBI)
    (※訳注:「TBI」とは「Total Body Irradiation」の略で、全身のがん細胞を消失させるとともに、骨髄移植に先立って、拒絶反応を防ぐ目的で宿主の骨髄幹細胞を根絶やしにして免疫力を低下させるために化学療法と併用して行われる全身照射のことです。)
  • 頭蓋への30グレイ以上の照射

以下のような抗がん剤(「アルキル化剤」と呼ばれる種類の薬)
投与量が多い場合、卵巣機能不全の原因となる可能性があります。

  • シクロフォスファミド(シトキサンR)
  • イホスファミド
  • ナイトロジェンマスタード
  • プロカルバジン
  • メルファラン
  • ブスルファン
  • クロラムブシル
  • ロムスチン(CCNU)
  • カルムスチン(BCNU)
  • チオテパ
  • ダカルバジン(DTICR)
  • テモゾロミド
  • カルボプラチン
  • シスプラチン

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女性の生殖器系に与えるその他の影響

思春期への移行の問題:

思春期を迎える以前の少女が、がんの治療を受けたせいで卵巣機能不全となった場合、思春期を迎えるためにはホルモン療法(医師の処方によるホルモン剤の投与)が必要です。思春期前に卵巣機能に影響を及ぼすような治療を受けた場合は、思春期が始まると予測されるタイミングの前に、ホルモン値のチェックを受けることが重要です。もし問題がみつかった場合には、追加の検査とその後の管理を受けるために、内分泌専門医(ホルモン治療医)を紹介してもらう必要があります。

月経の一時的な停止:

既に月経が始まっている女性の多くに、がんの治療中に月経が止まってしまうケースが見られます。ほとんどの場合、治療が終わってしばらく経つと月経の周期が始まりますが、どのタイミングで再開するかについては予想がつきません。稀には、月経が再開するまでに数年を要する場合もあります。排卵は月経周期が再開する前に起きるので、月経が再開する前に妊娠してしまう可能性もあります。もし妊娠を避けたいのであれば、月経が再開していない場合においても避妊を行う必要があります。

月経周期の永続的な停止(早発閉経):

閉経(月経周期の永続的な停止)は通常は45歳から55歳の間に起こります。既に月経が始まっていた女性が、がん治療のせいで卵巣機能不全を起こした場合、そのまま月経が再開しないことがあります。また、月経が再開したとしても、通常よりも早くに停止してしまう場合もあります。がんの治療中にアルキル化剤による抗がん剤の投与や腹部への放射線治療を受けた女性は、現時点で月経がある場合でも早期に閉経を迎えてしまうリスクがあります。このような早期閉経のリスクがある女性が子供を望むのであれば、子供を産むタイミングが30歳の前半を超えないようにすることがベストな選択です。なぜなら、がんの治療を受けたことにより、子供を産める時期が短くなってしまっているかもしれないからです。

女性ホルモンの欠如:

卵巣機能不全となった女性は十分なエストロゲンが作れません。エストロゲンは生殖に必要なだけではありません。強い骨と健康な心臓、そして全般的な健康状態を維持するのにとても重要なホルモンです。若い女性が卵巣機能不全を生じた場合には、ホルモン補充療法を受けるために内分泌専門医(ホルモン治療医)を受診しなければなりません。ホルモン補充療法は一般的な閉経年齢に達するまで 行う必要があります。

不妊:

不妊とは、避妊を行わない状況で2年以上経っても妊娠できない場合を言います。女性の場合の不妊は、卵巣が卵子を作れない場合(卵巣機能不全)、あるいは生殖器官が妊娠を維持できない場合に起こります。不妊は外科手術、放射線治療、化学療法やそれらの組み合わせの結果で起こり得ます。がんの治療とは関係のない別の理由で不妊になることもあります。

通常の月経周期で、ホルモン値(FSH、LHおよびエストラジオールの値)が正常であれば、その女性は妊娠をする可能性があり、おそらく赤ちゃんを産むことができるでしょう。月経がないか、もしくは、ホルモンの補充治療をしないと月経が来ない場合、あるいは、思春期を迎えるためやそれを促進するためにホルモン治療を受けなければならなかった場合には、不妊になりやすいです。

卵巣を両方摘出した女性は妊娠することができません。また、子宮の摘出術を受けた女性は出産することができません。不妊と診断された女性は、産婦人科の医師とがん専門医に、どのような選択肢があるのかを相談してください。(※訳注:第三者からの卵子提供や代理母出産は、2012年現在、日本では認められていません。)養子を迎える、あるいは、子供は持たないという選択肢もあります。

妊娠時のリスク:

小児がんに対して行われた治療法によっては、妊娠中、分娩中、出産時に問題が生ずるリスクが増すことがあります。次に述べる条件があてはまる女性は、そのようなリスクが増加します。

腹部(傍大動脈を含む)または骨盤(腸骨や鼠径部を含む)に放射線治療を受けた、もしくは全身照射(TBI)を受けた女性は、流産や早産、分娩中に問題を生じるリスクがあります。アントラサイクリン系の抗がん剤(ドキソルビシンやダウノルビシンなどの薬)を投与されたか、腹部や左側胸部に放射線治療を受けた女性は、心臓に問題を生じる可能性があり、妊娠中や分娩中に悪化する場合があります。(関連情報として「心臓の問題 」のページも参照してください。)

ごく稀ですが、ウィルムス腫瘍の診断を受けた女性は、妊娠中に子宮に問題が生じることがあります。

これらのリスク要因がある女性は、こうした高リスク妊娠の扱いに熟知している産婦人科医で経過をよく診てもらう必要があります。

幸いなことにほとんど場合、小児がん経験者が出産する子供が、がんや先天的な異常を発症するリスクは高くありません。ただし、ごく稀なケースですが、小児がんが遺伝性(家族性)のものである場合には、子どもにも同じがんが引き継がれるおそれがあります。そのがんが遺伝性のものかどうかがわからない場合には、がん専門医に確認してください。

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推奨される経過観察

卵巣機能に悪影響を及ぼすようながん治療を受けた女性は、月経の経過やホルモン値の状態、思春期を通じた発達状況を慎重に評価するための健康診断を年一回は受けるべきです。ホルモン値(FSH、LHおよびエストラジオールの値)を測定するために血液検査も行われます。もし何らかの問題が見つかった場合には、おそらく内分泌専門医(ホルモン治療医)やその他の専門医を紹介してもらえます。また、卵巣機能不全になっている女性は、骨密度検査(特別な種類のX線検査)により、骨がもろくなっていないかどうか(骨粗鬆症)のチェックも受けることをお勧めします。

Marcia Leonard [RN,PNP]

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