心臓の問題

小児がん経験者が心臓に問題を来すことはほとんどありません。しかしながら、小児期に行われるがん治療のうち特定のものは心臓に問題を起こします。心臓の問題はがん治療から何年も経った後で発症するかもしれないので、小児がん経験者は自分たちが受けた治療が心臓に影響を与える可能性があることを意識しておくことが大切です。心臓を健康に保つために、小児がん経験者は定期的な医師の診察や心機能をチェックするための検査を受けるなどの対策を講じることができます。そして、もし問題が起きても、早く見つけて治療することが可能です。

心臓とは

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心臓は身体の循環器系の中心で働く、筋肉でできた臓器です。心臓は酸素と栄養が含まれた血液を身体の各組織に運ぶポンプの役割を果たしています。心臓内には4つの部屋(2つの心房と2つの心室)があり、それぞれが血液を送るポンプとして協働しています。心臓の弁は血液の流れをこの部屋から血管へと向かわせます。心臓の収縮リズムと拍動の速さは、電気信号を心臓の各所へと伝える刺激伝導系(※訳注:心臓の収縮・拡張の正しいリズムを調節するための構造)によって調整されています。心臓は薄い膜(心膜)によって覆われており、胸郭内の左側にあります。

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心臓に問題を引き起こすがんの治療とは

特定の種類の抗がん剤や放射線治療が心臓に影響を及ぼします。

アントラサイクリン系の抗がん剤:

アントラサイクリンは多くの小児がんに対して使用される抗がん剤の一種です。この種類の抗がん剤は心臓に影響を与えることがあります。よく使われるアントラサイクリン系の抗がん剤には以下のようなものがあります。(※訳注:( )内は日本における商品名です。)

  • ドキソルビシン(アドリアシン)
  • ダウノルビシン(ダウノマイシン)
  • イダルビシン(イダマイシン)
  • ミトキサントロン(ノバントロン)
  • エピルビシン(ファルモルビシン)

放射線治療:

心臓の問題は、心臓や周囲組織への放射線治療によって生じることもあります。以下のような部位に対する放射線治療が該当します。

  • 胸部または胸郭(「マントル」や「縦隔」などの照射野も含みます)(※訳注:頸部・腋窩・肺門・縦隔のリンパ節への照射を「マントル照射」と呼びます。)
  • 脊椎(胸隔または「胸腔」の部分)
  • 全腹部または上腹部
  • 左腎周囲(左側腹部または左上腹部)
  • 全身照射(TBI)
    (※訳注:「TBI」とは「Total Body Irradiation」の略で、全身のがん細胞を消失させるとともに、骨髄移植に先立って、拒絶反応を防ぐ目的で宿主の骨髄幹細胞を根絶やしにして免疫力を低下させるために化学療法と併用して行われる全身照射のことです。)

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心臓の問題とは

がん治療の結果生じる心臓の問題にはいくつかの種類があります。

  • 心筋症: 心臓の筋肉の細胞が損傷し、心臓の収縮と弛緩が正常にできなくなること
  • 不整脈: 心拍のリズムを制御するために電気信号を伝える刺激伝導系に傷がついたか破損して、心拍が異常に速くなったり遅くなったり不規則になったりすること
  • 弁狭窄または弁閉鎖不全[弁膜症]: 心臓につながる大血管やその弁が損傷し、弁が固くなったり漏れが生じたりすること
  • 心膜線維症[収縮性心膜炎]: 心臓を保護する膜が炎症を起こす(心膜炎)か、瘢痕化して固くなること
  • 冠動脈疾患: 心臓に栄養を送る血管が傷ついたり閉塞したりして、心臓や周囲組織に酸素や栄養が到達しなくなること
  • 症状が重いケースでは、これらの問題から心臓の筋肉の壊死に至る場合(心臓発作または心筋梗塞)や、心臓が血液を正確に送り出せなくなる場合(心不全)があります。

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心臓の問題のリスク要因

アントラサイクリン系の抗がん剤: 心筋機能の問題(心筋症)や心拍リズムの異常(不整脈)を引き起こす可能性があります。

放射線治療: 心臓の組織を傷つけたり固くしたりすることによって、心拍リズムの異常(不整脈)や、心筋(心筋症)、弁(弁狭窄または弁不全)、血管(冠動脈疾患)、心膜(心膜炎、心膜線維症[収縮性心膜炎])などの問題を引き起こす可能性があります。

その他のリスク要因: 化学療法や放射線治療以外にも、心臓に問題が起こるリスクが高まる医学的状況がいくつかあります。肥満や高血圧、血液中のコレステロールや中性脂肪の高値、糖尿病などです。家族内にこうした体質傾向がある場合、心臓に問題が起こるリスクはより高くなります。また、心臓病は閉経後の女性に多い傾向があるので、早期に閉経した女性のがん経験者はリスクがより高いです。喫煙、運動不足(座り仕事が多い)、脂肪分の多い食事などの生活習慣も心臓病のリスクを増加させます。

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心臓に問題が起こるリスクが高い場合

小児がんの治療後に心臓に問題が起こるリスクは、以下のような要素と関係することがわかっています。

  • がん治療が行われた時の年齢
  • アントラサイクリン系の抗がん剤の総投与量
  • 胸部への放射線治療の総量
  • 放射線治療の照射野に含まれていた心臓組織の体積
  • 心機能に影響を及ぼすような他の薬剤による治療
  • 心機能に影響を及ぼすその他の状況

アントラサイクリン系の抗がん剤や胸部への放射線で治療を受けた小児がん経験者でも、心臓に全く問題がない場合がほとんどです。小児がん経験者の中には、心臓の大きさや機能の面で軽微な変化を指摘される人もいますが、それは時間を経ても悪化しない程度のものです。ごく少数の小児がん経験者に心不全や重症不整脈などの重篤な心臓の問題が起こります。まとめると、小児がんの治療後に心臓に問題が起こるリスクは、アントラサイクリン系の抗がん剤を投与されたか胸部への放射線治療を受けた小児がん経験者で高く、特に両方の治療を幼少時に受けた場合に最も高いと言えます。

小児がんの治療後、なぜ一部の小児がん経験者に心臓の問題が起こり、他の経験者には起こらないか(彼らが同じ治療を受けたとしても)についてはわかっていないため、アントラサイクリン系抗がん剤を投与されたか胸部に放射線治療を受けた小児がん経験者は定期的な健康診断を受けることが大切です。そうすれば、心臓に問題が発生したとしても、早期に発見して治療することが可能だからです。

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アントラサイクリン系抗がん剤による治療後のリスクを増大させる要因

  • 18歳未満の場合は、アントラサイクリン系抗がん剤の総投与量が300mg/m2(体表面積1平方メートルあたりのミリグラム)以上
  • 18歳以上の場合は、アントラサイクリン系薬剤の総投与量が550mg/m2以上
  • 女性であること
  • アフリカ系の家系であること
  • 治療時に幼少であること(5歳以前に治療を受けた全ての小児、特に乳児期に治療を受けた場合はさらにリスクが増大する)
  • 造血幹細胞(骨髄または末梢血幹細胞)移植前の大量のシクロホスファミド(エンドキサン)投与
  • 心臓に影響を及ぼす別の抗がん剤、アムサクリン(※訳注:日本では未承認の抗がん剤です。)の投与
  • 心臓周辺への放射線治療

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放射線治療後のリスクを増大させる要因

  • 以下の領域に対する20グレイ以上の放射線治療
    • 胸部/胸郭
    • マントル(下顎先から上腹部の間の部分)
    • 縦隔(胸の中心部)
    • 全腹部または上腹部
    • 左腎周囲(左側腹部または左上腹部)
    • 脊椎への30 グレイ以上の放射線照射
    • 全身放射線照射(TBI)
  • 造血幹細胞移植(骨髄または末梢血幹細胞)前における大量のシクロホスファミド(エンドキサン)投与
  • アントラサイクリン系抗がん剤の投与
  • 心臓に影響する別の抗がん剤、アムサクリンの投与
  • 何年も前の治療歴(より低い線量を用い、より安全に心臓の防護を行う最近の放射線治療技術では、心臓に悪影響を及ぼす可能性が低くなっているようです。)

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心臓に問題が生じた場合の症状

  • 呼吸促迫
  • めまい
  • 頭がくらくらしたり、よろめきかけたり、よろめいたりする
  • 運動や通常の遊びができないほどの疲労感
  • 重い圧迫感や充満感を伴い、腕、下顎、顔面までひびくような胸痛
  • 汗、悪心、呼吸促迫を伴う胸痛
  • 胸の中心または左側の刺すような鋭い痛み(深呼吸で悪くなる)
  • 足、足首の著しい腫れ(数秒間指で押すと、指を離した後も凹みが残るようなひどい腫れ)
  • おさまりにくい咳または喘鳴
  • 心臓が早くまたは激しく打つことがある
  • 心拍が不規則(脈がとぶ感じ)になることがある

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心臓の問題を悪化させる状況や活動

アントラサイクリン系の抗がん剤や胸部への放射線治療によって影響を受けた心臓は、心拍、血圧、循環血液量が著しく上昇するようなストレスのかかる状況に対応できないかもしれません。このような変化は、妊娠中や高熱を伴う病気の際に起こることがあります。

がん治療において心機能に影響を及ぼす薬が含まれている場合は、主治医が気付いているかどうかをまず確認してください。そうすれば、心臓への負荷を軽減するような手段を取ることができます。コカイン、ダイエット薬、マオウ、シナマオウ(※訳注:マオウ(麻黄)はエフェドリンを含有する漢方薬。中国原産なので別名シナマオウとも呼びます。)、強精剤といった薬剤は、循環系に負荷を与える可能性があります。これらの薬剤は、アントラサイクリン系薬剤を投与された小児がん経験者においては、心機能の悪化のみならず、時には生命にかかわる危険性すらあります。

一般的に、運動は心臓に良い効果をもたらしますが、ある種の運動は心臓に特にストレスを与えます。重量挙げやレスリングなどの激しい等尺性運動がこれに当たります。人が力をふりしぼる時には血圧が上がるので、重量挙げをするためにかがんだ場合、心臓はより強力に働かなければなりません。気楽に横になった上で軽めの物を15~20回を越えないように持ち上げる(制限つきの多回数重量挙げ)の方がはるかにストレスは少なく、安全です。また、有酸素運動(速歩、ランニング)は一般的に安全であり、心臓にとっても実際に健康的です。

アントラサイクリン系の抗がん剤や胸部への放射線治療を受けたがん経験者は、安全のため、いかなる運動であっても開始する前に担当医に診察をしてもらうべきです。競争を要するような、または、正式なチーム競技に参加する人は、適切な指針と運動中の監視予定について心臓の専門医に相談しておくべきです。

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必要な経過観察

小児がんの治療としてアントラサイクリン系の抗がん剤や胸部への放射線治療を受けた人は誰でも、心臓に関するあらゆる徴候の診察を含めた年1回の定期検診を受けるべきです。加えて、小児がん経験者が長期フォローアップに入る時(通常、診断から約5年後、または治療終了から約2年後)に、心電図(ECG、EKG)を受けなければなりません。心臓超音波検査、またはMUGAスキャン(※訳注:マルチゲートスキャンとも呼ばれ、ラジオアイソトープ検査の一種です。)も最初の長期フォローアップ外来において推奨される検査です。その後は以下の計画(または担当医の推奨)に従って検査を受けてください。

心臓超音波検査・MUGAスキャンの検査計画

治療時の
年齢*
胸部への
放射線照射
アントラサイクリン系薬剤の
総投与量**
心臓超音波検査・MUGAスキャンの
推奨検査頻度
1歳未満 あり 量に関係なく 毎年
なし 200 mg/m2未満 2年に1回
200 mg/m2以上 毎年
1~4歳 あり 量に関係なく 毎年
なし 100 mg/m2未満 5年に1回
100 mg/m2以上
300 mg/m2未満
2年に1回
300 mg/m2以上 毎年
5歳以上 あり 300 mg/m2未満 2年に1回
300 mg/m2以上 毎年
なし 200 mg/m2未満 5年に1回
200 mg/m2以上
300 mg/m2未満
2年に1回
300 mg/m2以上 毎年
*アントラサイクリン系薬剤、または胸部への放射線照射(いずれか早い方)が最初に行われた年齢
**ドキソルビシン、ダウノルビシンであればその総投与量、または他のアントラサイクリン系薬剤であればこの2薬剤に換算した総投与量
  • 心臓または周囲組織に40グレイ以上の放射線治療を受けたか、または、30グレイ以上の放射線治療に加えてアントラサイクリン系の抗がん剤投与を受けた小児がん経験者は、放射線治療後5~10年目に心臓の専門医による心臓負荷試験を受けるべきであり、その後は、専門医の推奨に基づいて経過観察を受けるべきです。
  • 心臓または周囲組織に放射線治療を受けた小児がん経験者は、3~5年に一度、心臓病のリスク因子に関する血液検査(各種脂質および空腹時血糖)を受けるべきです。

妊娠しているか、出産を希望する女性の小児がん経験者で、以下のような治療を受けた方は、心臓の専門医による追加の検査が推奨されます。

  • 300mg/m2以上のアントラサイクリン系抗がん剤投与
  • 心臓または周囲組織への30グレイ以上の放射線治療
  • 心臓または周囲組織への放射線治療(線量に関係なく)とアントラサイクリン系の抗がん剤投与
  • 造血幹細胞(骨髄または末梢血幹細胞)移植の前処置としての全身放射線照射(TBI)と大量のシクロホスファミド(エンドキサン)投与
  • 全身放射線照射(TBI)とアントラサイクリン系抗がん剤投与

妊娠後期や陣痛、分娩時には心臓にさらなる負荷がかかるため、心臓の監視が必須になります。妊娠前および妊娠後、特に妊娠の第三期における定期的な心臓超音波検査や、陣痛、分娩時に心臓モニターによる監視を行う必要があります。

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心臓の検査方法

  • 心電図(ECG、EKG): 心拍とリズムを評価するために行われます。電極(小さな粘着性のある小片)が胸と手足に装着されます。その電極には導線が接続されており、心臓の電気信号が記録されます。
  • 心臓超音波検査 心臓の筋肉の機能とポンプとしての働き具合を評価します。検査を受ける人はベッドに横たわり、伝導性のあるゼリーを胸に塗られます。プローブと呼ばれる変換器(超音波を発する装置)を胸に置いて、心臓を色々な角度から調べます。プローブで少し押されるため、不快感を覚えることがあります。検査結果は医師が後で検証するためにビデオテープや写真に記録されます。この検査中、心臓の血液ポンプとしての働きがうまくいっているかどうか調べるために様々な測定が行われます。さらにこの超音波検査では、心臓の弁が正常に開閉しているかどうかもチェックされます。通常は、検査中の心臓の電気信号を監視するために電極が胸に張られます。
  • MUGA スキャン(マルチゲートスキャン): 心臓の動きと全身へ血液を送り出す機能を調べるもうひとつの方法です。この検査では、少量の放射性同位元素が静脈内に注射されます。検査を受ける人はベッドに横たわり、ベッドの上を特殊なカメラが動いて、心臓の動きの写真を撮影します。また、検査中の心臓の電気信号を監視するために電極が胸に張られます。
  • 心臓負荷テスト: 心臓が激しく働いている時の心機能を測定します。この検査では、ベルト式の歩行装置の上を歩く間に心臓の動きと血圧が監視されます。

問題が見つかった場合:

担当医がこれから必要な対処方法について助言してくれます。追加検査や薬物療法のために心臓の専門医への紹介が必要となることもあります。

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健康を保つために

ある種の心臓病(心臓発作や動脈硬化など)のリスクは年齢と共に増加します。心臓病のリスクを増大させる要因には、喫煙、肥満、脂肪分の多い食事、運動不足などがあり、リスクを増大させる医学的状況には、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症などがあります。これらのリスクは以下の方法で減らすことができます。

  • たばこを吸わないこと(現在喫煙しているのであれば禁煙しましょう)
  • 健康的な体重を維持すること
  • 食事全体のカロリーに占める脂質の割合が30%を超えないように制限すること
  • 一週間のうちのほとんど毎日、30分以上中程度の運動をすること

糖尿病、高血圧、高コレステロール血症に罹患している場合は、主治医のすすめに従って、食事や薬物によりこれらを良好な状態に保ちましょう。心臓の問題に関連する症状があったら、必ずすぐに主治医に知らせましょう。

Debra L. Friedman [MD], Melissa M. Hudson [MD], Wendy Landier [CPNP]

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