肺の健康

肺は、全身に酸素を供給し二酸化炭素を排出する役割を担う、とても重要な臓器です。時として小児がんの治療は肺に悪影響を及ぼすことがあります。肺に問題が生じる可能性のある治療を受けた場合は、肺について学び、肺の機能を保つために何ができるかを知ることが大切です。肺は空気中の酸素を血液へと取り込み、血液は体の重要な器官を巡って酸素を届けます。また、身体の細胞から出る老廃物である二酸化炭素を排出する役目も持っています。

酸素が血液に届くためには、肺の中にある肺胞を通り、その一つ一つを取り巻いている細い血管(毛細血管)の中へ入って行く必要があります。肺胞が損傷を受けるか瘢痕化した場合、酸素が血流に入り込むための面積が少なくなってしまい、血液に届く酸素の量が減ってしまいます。このような状態になった人は、十分な酸素を取り入れるために速く呼吸する必要があり、そのせいで息苦しく感じることになります。その他の肺の問題は、肺内の気道の炎症や、刺激や感染症のせいで粘液性物質が増えることによって起こります。症状としては、咳、喘鳴(ゼイゼイと息をする)、胸部の痛み、息苦しさなどがあります。

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肺に問題が生じるリスク要因

小児がんの治療中に以下のいずれかの治療を受けた場合は肺に問題が生じるリスクがあります。

  • ブレオマイシン(詳しくは、「ブレオマイシンに関する注意事項 」を参照してください)
  • カルムスチン(BCNUとしても知られています)
  • ロムスチン(CCNUとしても知られています)
  • 胸部への放射線治療(マントル、縦隔、全肺野への照射を含みます)(※訳注:頸部・腋窩・肺門・縦隔のリンパ節への放射線治療を「マントル照射」と呼びます。)
  • 腹部への放射線治療(全腹部、上腹部への照射を含みます)
  • 脊椎への30グレイ以上の放射線治療
  • 全身照射(TBI)(※訳注:「TBI」とは「Total Body Irradiation」の略で、全身のがん細胞を消失させるとともに、骨髄移植に先立って、拒絶反応を防ぐ目的で宿主の骨髄幹細胞を根絶やしにして免疫力を低下させるために化学療法と併用して行われる全身照射のことです。)
  • 胸部もしくは肺への外科手術(ただし、ヒックマンカテーテル、ブロビアックカテーテル、ポート・ア・キャス、メディポートのような中心静脈ラインの留置のための手術は含まれません)
  • 自分以外のドナーから骨髄または幹細胞の移植(同種移植) を受け、その後、慢性移植片対宿主病(慢性GVHD)を発症した場合
  • ダウノルビシン(ダウノマイシンR)、ドキソルビシン(アドリアマイシンR)、イダルビシン(イダマイシンR)などのアントラサイクリン系の抗がん剤は心臓に悪影響を及ぼし、その結果、肺にも問題を引き起こす可能性があります。特に、ブレオマイシン、BCNU、CCNUと放射線治療が組み合わされた場合にリスクが高まります。

リスクが高まるその他の要因は以下の通りです。

  • がん治療が幼少の時に行われた
  • 肺の感染症、ぜんそく、その他の肺の病気の罹患歴がある
  • 喫煙しているか、受動喫煙にさらされている

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肺に生じる問題とは

肺に生じる問題には、瘢痕化(肺線維症)、感染症を繰り返すこと(例えば、慢性気管支炎、再発性肺炎など)、肺胞が破裂したり肺内の気道が腫れてふさがってしまったりすること(拘束性肺疾患/閉塞性肺疾患)などがあります。

肺が損傷を受けた際にはどのような症状があるのでしょうか?症状には、息苦しさ、頻繁に出る咳や喘鳴、胸の痛み、気管支炎や肺炎などの感染症に頻繁にかかることなどがあります。また、疲れやすくなったり、あまり激しくない運動でも息切れしたりするなどの初期症状が現れる場合もあります。

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推奨される経過観察

  • 毎年、健康診断を受けてください。
  • 胸部レントゲン検査と肺機能検査(ガス拡散能検査と肺活量測定を含む)は健康診断ではわからない肺の問題を明らかにします。このため、少なくとも一度(がん治療が終了した2年後)、問題がないかどうか確認するためにこれらの検査を受けておくと役立ちます。主治医はこれらの検査結果を踏まえて、追加検査が必要かどうかを決めることができます。
  • 全身麻酔を必要とする外科手術が予定されている場合には、麻酔中や麻酔後に呼吸障害を起こす危険性が増すような肺の変化がないかどうかをチェックするため、主治医は胸部レントゲン検査と肺機能検査を再度受けるように薦めます。

特に注意すべき事項

前述の治療のうちいずれかを受けた場合には、次のことに気をつけましょう。

  • 肺炎球菌予防ワクチンを受けましょう。
  • 毎年、インフルエンザ予防ワクチンを受けましょう。
  • ダイビングに詳しい医師の診察を受けて許可を得た場合を除き、スキューバダイビングをしないようにしましょう。

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肺疾患を防ぐには

  • 水タバコや噛みタバコなども含め、喫煙しないようにしましょう。
  • 喫煙している場合、健康状態を維持し改善するためには、禁煙することが最も重要なことです。
  • 受動喫煙を避けましょう。
  • 定期的に運動をしましょう。
  • 化学薬品、溶剤、塗料などから生じる有害な気体を吸い込まないようにしましょう。
  • ある一定の職場環境では防御のための換気装置を使用するなど、職場における安全基準には全て従いましょう。危険な労働条件については、労働基準監督署などに報告しましょう。

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禁煙するために

禁煙を一番助けてくれるのは、家族、友人、そして主治医です。以下に記載するのは、禁煙の教育とサポートに関する追加の情報源です。

(※訳注:日本における情報は、「厚生労働省~たばこと健康に関する情報ページ~」を参照してください。)

【参考情報】(※訳注:全て英文サイトです。)

  • http://www.surgeongeneral.gov/tobacco
    タバコをやめるきっかけになるニコチンチップや最初の1週間を乗り切る方法について、また禁煙を遠ざけるような根拠の薄い社会的通念の情報についても掲載されています。
  • http://www.cdc.gov/tobacco
    禁煙のための案内も掲載されている、米国疾病対策センターのタバコに関する情報と疾病予防のサイトです。
  • http://www.lungsusa.org/ffs
    American Lung Association(米国呼吸器学会)の「タバコからの離脱」プログラムを掲載しています。

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肺を健康に保つための情報

肺そのものや、肺を健康に保つ方法についてのさらなる情報は、以下のウェブサイトから入手可能です。

(※訳注:日本の情報は、「日本呼吸器学会」のホームページ を参照してください。)

【参考情報】(※訳注:全て英文サイトです。)

  • http://www.nhlbi.nih.gov/health/public/lung/
    米国立心臓肺血液研究所のウェブサイト。患者さんやご家族のための一般的な情報が掲載されています。
  • http://www.nlhep.org/
    「国立呼吸器健康教育プログラム」(National Lung Health Education Program)のウェブサイトには、肺をどのように健康に保つかに関する患者さん向けの情報が掲載されています。

Charlene Maxen [RN, CNP, CPON]、Sarah Freibern [MD]

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